君の曲は簡単だけれど良い曲だね—ソングライターの中には、年齢とともにテーマが歌詞内容が変わっていく人と、歳を取っても歌世界の中では変わらない、ボーイ・ミーツ・ガール的な曲を作り続けていく人がいるように思うんですが、自分ではどちらだと思いますか?小西:ソングライターとしては若い頃は完全にサウンド志向で、歌詞はどうでも良かった。でも、今は完全に歌詞ですね。そういう風に変わりました。
—でも、僕と小西くんは若い頃から個人的つきあいもありますけれど、当時から小西くんの恋愛観は非常にペシミスティックで、今回の曲でいえば、「神の御業」の頃からそういう諦観、絶望というものを強く湛えている。そのへんはどうでしょう? 30年、40年が過ぎて、歳を取ると、テーマは変わってきますよね。実人生においては。小西:そうですね。
「神の御業」のオリジナルは、1988年作『ベリッシマ』収録—でも、ソングライターとしての世界観みたいなものは、あまり変わらない?小西:自分を取り巻く状況は変わりましたが、そのへんは変わってないかもしれないですね。基本、同じ世界。でも、老化した分、絶望感よりも、もう少し受け入れる感じ。
—若い頃はみんな暗いですからね。小西:そうですね。
—歳を取ると、諦めとともに明るくなる。小西:そういうことですかね(笑)。
Photo by Shiho Sasaki—今回のアルバムで過去の曲を聴き直すと、小西康陽作品の核になる響きがよく分ると思いました。逆からいうと、もっとヴァラエティーに富んだ作品があったように思ったんだけれど、すごく核の部分だけが集められているとも。小西:ああ、そうかもしれない。意図的ではないですけれど。
—ピアノのコードがよく分るからかもしれません。キャロル・キングのシティ時代とか、ローラ・ニーロとかフィフス・アヴェニュー・バンドとか、1970年前後のニューヨークの香りがする。小西:ハーモニーに対する感覚は非常にストライクゾーンが狭いんですよ。ボキャブラリーが少ない。もう一言でいえるくらい簡単なんですよ。CメジャーのキーでいうとCキーとE♭キーと…。
—短三度転調する。小西:そう、ほとんど、そのヴァリエーションなんですよ。
ローラ・ニーロの1968年作『イーライと13番目の懺悔』収録曲「Stoned Soul Picnic」—でも、他の技法も知っているけれど、使わないわけでしょう?小西:そうなのかどうかは分らない。
—ディミニッシュ使って、こう進行すると、ビートルズっぽくなるとか、そういうのは捨てているでしょ?小西:それはあると思う。それはあるんだけれど、メロディーメイカーとしては本当にワンパターンだと思いますね。一回だけ、窪田晴男くんに曲を褒められたことがあって、君の曲は本当に簡単だけれど良い曲だねと。