新型コロナ、重傷者の治療薬として話題の「デキサメタゾン」とは?

COVID-19(新型コロナウイルス)に対する効果は?

新型コロナウイルスのようにウイルスが原因で発症する肺炎を治療するとき、2種類の治療薬に白羽の矢が当たると米イェール大学医学大学院の准教授で呼吸器科医でもあるチャールズ・S・デラ・クルーズ教授は指摘する。その2つとは、抗ウイルス薬と抗炎症薬である。レムデシビルのような抗ウイルス薬は、ウイルスの成長と増殖を抑える。デキサメタゾンのようなステロイド剤をはじめとする抗炎症薬は、免疫系の暴走を抑制するのだ。

「(デキサメタゾンは)免疫系の暴走を抑えようとする体の作用に似た働きをします」とニューヨーク市を拠点に活動する微生物学者で、ウイルスや病気の伝染を専門とするディーン・ハート教授は述べた。「新型コロナウイルスの場合、免疫系の過剰反応が原因で一部の患者が命を落とすのはたしかです」と詳しく言う。「ウイルスが撃退される一方、ウイルスという異物が体内にいるせいで、ありとあらゆる副次的効果が引き起こされ、免疫系の恐ろしい反応が生じるのです」。

まさに典型的な板挟み状態だ。「体が受けるかもしれないダメージを抑えるために免疫系の反応を抑えたい一方、ウイルスを撃退するには免疫システムが極めて重要であることもわかっています」とデラ・クルーズ教授は本誌に語った。「“3匹のくま”の物語のような状況ですね。多すぎるのはダメですし、少なすぎてもいけない。そこで、私たちは最適なバランスを見極めようとしてきました」。さらに厄介なことに、肺炎とステロイド剤という組み合わせが一部の患者の死亡率を増加させるという研究結果もある。それに加えてデラ・クルーズ教授が指摘するには、SARS(重症急性呼吸器症候群)とMERS(中東呼吸器症候群)の感染流行中に行われた研究では、ステロイド剤による大きな効果は確認されていない。「こうして私たちはいま、パンデミックに直面しています。新しいウイルスが多くの人を感染させているのです」とデラ・クルーズ教授は語る。「そこで、ステロイド剤を使って何ができるか? という問題が生じます」。

危惧されるデキサメタゾンの副作用とは?

「リカバリー・トライアル」被験者に関していえば、デキサメタゾンがどのような副作用を引き起こすか、そもそも副作用が確認されるかは現時点では明らかになっていない。だが、肺疾患で同じような治療を受けた患者の反応を参考にすることは可能だ。たとえば、デキサメタゾンのような副腎皮質ホルモン剤は、2003年と2004年に入院していたSARSの重症患者に治療薬として投与されたと感染症の専門家で米オハイオ州トレド大学の医学・生命科学部のジェニファー・ハンラハン准教授は語る。デキサメタゾンを投与された患者の1/3が結果として骨粗しょう症のような長期的かつ深刻な副作用を引き起こしたのだ。ハンラハン准教授は、ほかの感染症のリスクを増加させるかもしれないことが副腎皮質ホルモン剤の悩みのひとつだと言う。「人工呼吸器を必要としているような一部の重症患者の場合、入院中に副次的なバクテリア感染を発症するケースも確認されています。副腎皮質ホルモン剤の投与により、感染症にかかるリスクを増加させる恐れがあるのです」。

それに加え、ステロイド剤は糖尿病や高血圧症などの症状を抱える患者にとってはかならずしも最善策ではないとイェール大学医学大学院のアレルギー・疫学部長を務めるクリスティーナ・プライス教授は指摘する。「(糖尿病や高血圧症の患者に)ステロイド剤を投与すると、血糖値がぐんと上昇し、場合によってはインスリンや血糖値コントロールを行わなければならないこともあります」とプライス教授は本誌に語った。デラ・クルーズ教授も、糖尿病と診断されていない患者もやがては高血糖症を発症する可能性があると付言した。

デラ・クルーズとプライスの両教授は、「リカバリー・トライアル」の結果に注目している。というのも両者は、トシリズマブのコロナ患者への有効性を調べた6月16日発表の別の査読済み論文の共著者なのだ。「リカバリー・トライアル」と異なり、デラ・クルーズとプライスの場合は無作為に被験者を選ばず、イェール大学の関連病院ですでに治療中の入院患者を対象としている。その結果は、前途有望だ。トシリズマブを投与された患者の生存率は想定よりも高く、副作用も最小限に抑えられた。プライス教授によると、検査の対象となった患者の大部分は有色人種で、年齢別に調べたところ、白人よりも黒人とラテン系患者の生存率のほうが高かった。しかし、トシリズマブが新型コロナウイルスに苦しめられた有色人種の人々に有効かもしれないという両者の成果を立証するには、無作為化臨床試験が必要だ。

・米国立アレルギー・感染症研究所の所長が語る、新型コロナが「史上最悪」の伝染病である理由

Translated by Shoko Natori

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