バウアーが語る自分だけの宇宙、SFと伊藤潤二の影響、「ハーレム・シェイク」に今思うこと

バウアー(Courtesy of Beatink)

2013年のメガヒット曲「ハーレム・シェイク」で知られるバウアーが最新アルバム『Planet’s Mad』を発表。ジェイ・Zやトラヴィス・スコット、Awichなどとの共演歴を持つ人気プロデューサーに、ニューヨークでのロックダウン生活、SF映画や日本のカルチャーへの興味、優れたプロデューサーの条件などを語ってもらった。


ーまずは近況について聞かせてください。コロナウイルスの被害が甚大なニューヨークにおいて、ロックダウン中の生活はどんな感じですか?

バウアー:なんとかやってるよ! 感染者数が急に増えて外出が制限されたあたりは、非現実的な内容のニュースに怯えていたけど。でも引きこもっていることに関しての辛さは感じていないよ。幸いにも、自分の家族や友達はみんな元気だしね。この事態を早く乗り越えるためにも、なるべくポジティブな気持ちを保って家にいるようにしているよ。



ーどんな風に時間を過ごしているのでしょう?

バウアー:最初のうちは本当になにもしていなかったんだ。不安な気持ちはあったけど、なにをすべきかも全然ピンと来なくて、ただソファでゴロゴロしてぼんやり過ごしていて。あまりのヒマさにだんだんイラついてきた頃、ようやく音楽を作りはじめて。はじめはスローペースだったけど、満足のいくものが少しずつ出来上がっていくうちに完全にノッてきちゃったんだよね(笑)。だから、今は曲作りに没頭しているよ。

あとは家で曲作りをするようになってから、Twitchの配信を始めたんだ。作曲の過程をライブ配信で見せたりするんだけど、それがすごく楽しくて。最初はそもそもこんなの見たい人がいるのかと気になったし自分がうまくできるのか不安だったけど、すっかりハマってしまった。今は曲作りの過程を見せるのも、仕上げの工程を見せることも、同じくらい楽しんでいるよ。ひとりでする作業を人と共有するってことが好きなんだなと気がついたね。

ー配信中はファンとの交流なども楽しんでいるんですか?

バウアー:もちろん! それが醍醐味なんだ。見てくれているのは知り合いじゃなくて素性のわからない人ばっかりなんだけど、そういう人たちと話ができるのってすごく面白いよ。チャットをしながら作業を進めているうちに、いつの間にか何時間も経っていたりするね。



ー好きなアーティストの作曲風景が見られて、直接リアクションをもらえるというのはファンにとっても貴重な機会ですよね。その一方で、出演を予定していたイベントやフェスはかなりの数中止になったのでは?

バウアー:ああ、その通りだよ。基本的にこの数カ月のうちに予定されていた公演はすべてキャンセルになってしまったんだ。

ー肌感でいいのですが、ライブ活動が再開できる時期についての見通しはありますか?

バウアー:いや、正直全然わからないな。それが今一番怖いと感じることのひとつだね。日々いろんなニュースを見たり記事を読んだりするんだけど、今年中の再開はもう無理なんじゃないかっていう見方が多くて、もしかすると来年になってしまうんじゃないかな。今の時点で見通しが一切立っていないってことがすごく不安だよ。

ー日本は今、たくさんのクラブやライブハウスが閉店の危機に瀕しています。政府から休業を要請され早期から自粛を開始するもまったく補償がなされず、この1カ月の間に歴史あるクラブがいくつも閉店を発表しました。多くの店舗が自主的にクラウドファンディングなどで資金集めに奔走していますが、状況はかなり厳しいです。ニューヨークのクラブ事情は今どうなっていますか?

バウアー:本当に悔しいよね。こっちも今聞いたのとだいたい同じような状態だよ。でも、この事態になる前からニューヨークのクラブ業界の景気は決していいとは言えなかった。たとえば一昨年の年末、自分も足を運んでいたブルックリンの有名クラブ「Output」が閉店したのは衝撃的だった。テクノ箱としてはニューヨークでナンバー1と言われていて、世界中の素晴らしいDJがブッキングされるような名店だったのに。ここニューヨークには成熟した素晴らしいシーンが存在しているし、それは今も変わらないけれど、クラブの経営状況の悪化の兆しはコロナウイルスの影響が出はじめる前から確かにあったように思う。最近はロフトパーティーと呼ばれる、もっとアンオフィシャルでアンダーグラウンドなパーティーが流行っているんだ。RSVP(事前登録)した人のみに開催場所が通知されるようなシステムで、自分としてはそれも面白くていいと思うんだけど。

ー地方政府などから、クラブやミュージシャンに対する補償などは?

バウアー:いや、残念ながら聞いたことがないな。具体的な補償制度は存在しないと思うよ。

ーこの状況について、他のアーティストと話し合ったりしていますか?

バウアー:うん、そうだね。でも今のところみんな状況は同じだねってことを確かめ合うくらいかな。先のライブの予定がすべて白紙になって、次になにをすべきかもわからないような宙ぶらりんの状態で、状況が変わるまでただ辛抱強く待つしかなくて。でも自分がTwitchをやり始めたみたいに、ライブ配信をするアーティストはどんどん増えてきている。この状況で「やることがある」ってこと自体、気分がいいんだよね。自分自身が楽しみながら、ほかの人を楽しませることができるっていうのが、すごくいい。

ー確かに、オンラインのストリーミングイベントは爆発的に増えていますよね。世界的にもこれまでとは比較にならないほどにアクセスが増えていると思いますし、週末はどれを見ようか悩むこともあるくらいです。自分から発信するだけでなく、そういったほかのイベントをオンラインで見ることに興味はありますか?

バウアー:もちろんだよ! むしろ、よく見ている方じゃないかな。自分でやってみようと思ったのも、そういった配信を見るのが好きだったからだし。

ー最近だと、ポーター・ロビンソン主催の「SECRET SKY MUSIC FESTIVAL」(5月10日開催)は観ました?

バウアー:ああ、見たよ! 面白かった。


「SECRET SKY MUSIC FESTIVAL」でのポーター・ロビンソンのDJセット。日本からはkz(livetune)、キズナアイ、長谷川白紙が出演した。

ー現行のエレクトロニック・シーンと日本独特のオタク文化がうまくクロスオーヴァーしていたのがよかったですよね。

バウアー:彼は生粋のオタクだよね。本当に好きなことをやっているのが伝わってくるし、イベントにもそんな彼の個性がしっかり出ていたように思うよ。逆にそれって日本の人からどんな風に捉えられていたのか興味があるな。君自身は楽しめた?

ーもちろん! ポーター自身が他のアーティストのプレイに誰よりも興奮していた様子で、チャットやTwitterを通じてファンと積極的に交流してフェスを盛り上げていたのが印象的でした。日本のアーティストのプレイに世界中からコメントがつくのを見ることも新鮮で楽しかったです。

バウアー:そうそう、いろんな国のアーティストが同じフェスに出られるのはオンラインならではだよね。

ーもし自分が配信フェスティバルを開催するとしたら、どんなものにしたいですか?

バウアー:うーん! いい質問だな。たとえばこの前ポーターが成し遂げたことですごいと思ったのは、彼だけの世界を構築していたってところなんだよね。一歩そこに足を踏み入れた途端に彼の世界が広がるというか、まさに「ポーター・ワールド」って感じだった。それこそがまさに、自分の目指すべきところかな。自分だけの世界をつくり出したいんだ。そこにいろんなアーティストがやって来てプレイしてくれるんだけど、すべてが「バウアー・ワールド」の中で起きているように、見ている人に感じさせることができるような。そんなイベントを作ることができたら最高だね。

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