腰パンとレイドバックと奴隷船

本文に何度も「ダルい」と書いたことだし、レイドバック・キング、ダル・ジョーンズの演奏風景。最近はジャック・ホワイトのドラマーとして有名。


このヒップホップ~ネオソウル発のレイドバックが、年を経ることでメソッド化されていき、2010年代に入るとジャズミュージシャンを筆頭に、誰も彼もが取り入れるようになった。それで冒頭の話に戻るけど、アメリカ黒人に端を発したレイドバック感覚はいまや、世界中のミュージシャンにとって基本装備となっている。白人もアジア人も老いも若きも、誰もがレイドバックをやる。もちろん僕もやる。

だけどその意味なんて考えたことがなかった。かっこいいから、ドープな感じが出るから、いまっぽいからやってる。浅はかだけど、それだけだった。ふたたびボス。「誰がレイドバックをやり始めた?」。ビバッパー? それかブルースマン?  「そうだ。なぜ彼らはそうしたんだ?」。クールだから?  「そりゃそうだけど、聞け、あれは『俺はナメてるぜ』って意味なんだ。『ダルいぜ』『ちゃんとしねえぜ』って表明なんだよ」

え、どういうこと? 誰をナメてるの? 「まず雇い主だな。ジャズメンは白黒いるけど雇い主はほとんどが白人だ。彼らはそれにムカついていた。だけど生きていくのにカネは必要だろ。だから彼らはクビにならない程度に斜に構えた態度を編み出したんだ。それがストレートに吹かないってこと」。マジで? そんな話初めて聞いたんだけど。

「あとジャズにはボクシングみたいなところがあって、そうするとアティテュードが大事になってくる。こんくらいのフレーズ俺には余裕だぜー、タルいぜー、って客や周りのミュージシャンに誇示するんだ、ほんとは一杯々々でも。まあカッコつけだな。ところで今日、おまえの雇い主は誰だ?」。え、あなたですけど。 「つまり俺のバンドでレイドバックしてみせるっていうのは、俺をナメてるってことだ」

えーないない! ナメてない! 尊敬してる!  「ハハハ、わかってるよ。けど、レイドバックってのはもともとそういう意味なんだ。お前は下っ端だろ。だから俺のバンドであれはやるな。上手くなって腕で稼げるようになったら、好きにやれ」。なるほどなあ。帰り道、自分がなぜアメリカ産の黒人音楽にばかり強く惹かれてきたのか、少しわかったような気がしてきた。

アフリカ人は奴隷貿易によって世界中に分布することになって、だから世界中に黒人音楽、言い換えればアフリカ由来のポリリズミックなリズムは遍在している。ただ、ことレイドバックという感覚においてはアメリカ黒人の音楽って、よそになく強力で、魅力的で、震源地だと思う。たぶんそれは、この国の黒人が経てきたストラグルと関係していているのだろう。

別にアフリカやイギリスやフランスや世界中にいる黒人たちが楽勝な歴史を送ってきたとは微塵も思わない。ただアメリカの黒人には、400年にわたる長く酷烈な奴隷制と、いまなお続くその精神的および社会的な後遺症がある。図らずもそれが、アメリカだけに固有の音楽的結実を多々もたらしてきた。レイドバックもまた、その連綿たる歴史の一端なのだった。それをよくも、腰パン気分でコスメティックに模倣して悦に入ってたもんだなーと自分に呆れたのだった。



唐木 元
ミュージシャン、ベース奏者。2015年まで株式会社ナターシャ取締役を務めたのち渡米。バークリー音楽大学を卒業後、ブルックリンに拠点を移して「ROOTSY」名義で活動中。twitter : @rootsy

◾️バックナンバー
Vol.1「アメリカのバンドマンが居酒屋バイトをしないわけ、もしくは『ラ・ラ・ランド』に物申す」
Vol.2「職場としてのチャーチ、苗床としてのチャーチ」
Vol.3「地方都市から全米にミュージシャンを輩出し続ける登竜門に、飛び込んではみたのだが」
Vol.4「ディープな黒人音楽ファンのつもりが、ただのサブカルくそ野郎とバレてしまった夜」
Vol.5「ドラッグで自滅する凄腕ミュージシャンを見て、凡人は『なんでまた』と今日も嘆く」
Vol.6「満員御礼のクラブイベント『レッスンGK』は、ほんとに公開レッスンの場所だった」 
Vol.7「ミュージシャンのリズム感が、ちょこっとダンス教室に通うだけで劇的に向上する理由」
Vol.8「いつまでも、あると思うな親と金……と元気な毛根。駆け込みでドレッドヘアにしてみたが」

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