オリジナル楽曲によるニューアルバムとしては2012年発表の『テンペスト』以来、8年振りとなる『ラフ&ロウディ・ウェイズ』を発表するボブ・ディラン。ノーベル賞受賞者が語る大変貴重なインタビューが、その新作の発売(日本盤は7月8日)前に行われ、現地時間12日にニューヨーク・タイムズ紙のWEB版で公開された。その内容は「最も卑劣な殺人」の発表後とジョージ・フロイドがミネアポリスで殺された翌日の2回にわたって電話で交わされた話をまとめたものだ。死、過去からのインスピレーション、そして新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』について語られた中より以下に抜粋する(翻訳:丸山京子)。
・ジョージ・フロイドの家族とこの国に迅速な正義をニューヨーク・タイムズの記者が79歳になったディランと、2度目となる短い会話をしたのは、ジョージ・フロイドがミネアポリスで殺された翌日だ。故郷の州で起きたこの事件に明らかに動揺していたのだろう。その声は沈んでいた。
「ジョージが虐待され、死に追いやられるあの光景は、見るに耐えらないほど気分が悪かった。醜い、というのを越えていた。フロイドの家族とこの国に、迅速な正義が訪れると思いたい」
【画像】故ジョージ・フロイドさんの葬儀、故郷ヒューストンにて(写真ギャラリー)・「最も卑劣な殺人」に登場するポップ・カルチャーの担い手たちビルボード・シングル・チャートで初の全米No.1を獲得した「最も卑劣な殺人」。この歌は長らく失われていた時代のノスタルジックな賛辞では?との記者の質問に対し、ディランは、
「ノスタルジーではないよ、私にとっては。<最も卑劣な殺人>は過去を美化しているわけでも、失われた時代を見送っているわけでもない。曲というのは、その瞬間に、私に語りかけてくるだけだ。これまでもずっとそうだった。歌詞を書いている時は特にそうだ」
と懐かしさを基に作ったのではないと語り、歌詞にドン・ヘンリーとグレン・フライという意外な名前を挙げたのについて、
「<ニュー・キッド・イン・タウン><駆け足の人生><お前を夢みて>。史上最もよく書けた曲といっていい」としている。
さらにこの歌では、アート・ペッパー、チャーリー・パーカー、バッド・パウウェル、セロニアス・モンク、オスカー・ピーターソン、スタン・ゲッツなどの名前も出てきており、ジャズの及ぼす影響や最近聴いている作品について、
「マイルスのキャピトル時代の初期のやつかな。でもジャズ、って何がジャズなんだ?ディキシーランドか、ビバップか、高速のフュージョンか?何をもってジャズと呼ぶ?ソニー・ロリンズか?ソニーがカリプソをやってるのは好きだが、あれはジャズか?ジョー・スタッフォード、ジョニ・ジェイムス、ケイ・スター……彼女たちもみんなジャズ・シンガーだったと思うし。私が考えるジャズ・シンガーといえばキング・プレジャーだが。わからないよ、すべてがジャズっていうカテゴリーに入れられるわけで。ジャズは”狂騒の20年代” に遡る。ポール・ホワイトマンはキング・オブ・ジャズと呼ばれていた。もしレスター・ヤングに尋ねていたら、お前は何を言ってるんだと言われてると思う」
と答え、そのどれかからインスパイアされたか?に対しては、
「ああ、おそらくものすごくね。シンガーとしてのエラ・フィッツジェラルドにはインスピレーションを感じる。ピアニストとしてのオスカー・ピーターソン、当然だ。ソングライターとしてインスパイアされたか? ああ、モンクの<ルビー・マイ・ディア>。あの曲を聴き、ああいった一種の方向に向かうきっかけになった。何度も何度も、繰り返し聴いたのを覚えている」と話す。