コロナ感染、65歳以上の高齢者に対する偏見と差別意識

65歳未満の人々はある種の「心理的保護」を感じている

「危機的状況ですから、当然一人ひとりを評価することなどできません」というのは、老いを専門とするスイスのローザンヌ大学心理学部の准教授、ダニエラ・ジョップ博士だ。「ですが、ひとつこれだけは念頭に置いておくべきでしょう。たしかに、年齢のせいでより危険な状態にある人々を守りたいですが、(将来的に)高齢者を劣等市民かのように扱う風潮を生むことがあってはなりません」

世界的大流行のさなか、誰もがある種のサバイバルモードに入っている。周知の通り、高齢者を十把一絡げにして「感染の危険が高い」と分類することで、状況に対応している人も多いのだ。「パンデミックのようなことが起きると、人は責める相手を探すだけでなく、いつかは我が身という可能性から自分たちを守ろうともするのです」と言うのは、イスラエルの共同研究センターの心理学助教授、ジラード・ヒルシュベルガー博士だ。パンデミックの被害者は主に高齢者であることから、65歳未満の人々はある種の「心理的保護」を感じていると博士は言う。「『自分たちは関係ない』と言うことができるのです」

だが、一口に高齢者と言っても決して一様ではない。「若年層と比較すると、高齢者のほうがずっと多様的です。人種や民族、社会経済的な地位、障害、性的嗜好、性同一性など、様々な点で様々な高齢者がいるのです」。デューク大学で精神医学と行動科学の助教授を務め、老いを専門とするキャサリン・ラモス博士はローリングストーン誌にこう語った。例えば、COVID-19では有色人種コミュニティの被害者が群を抜いていることが分かっている。こうしたコミュニティの人々は歳をとった時、年齢に対する偏見だけでなく、自分が属する人種や民族に付随する医療格差にも直面しなくてはならない。言い換えれば、同じ70歳でも白人の中流階級のほうが、人種や民族、社会経済的地位の異なる人々より医療を受けやすい状況になっている可能性もある。「高齢者にも微妙な差異があり、多様性の中にも、他より優遇されている人々がいることに注目する必要があります」とラモス博士は言う。

公共生活の再開に伴う危険と利点、あるいは物資が限られている中で誰を人工呼吸器にかけるかといった議論を検討する際、我々はさまざまな価値観を人間の命に置き換えている――たとえ自覚していなくても。確かに、日常生活を再開すれば経済は再建できるだろうが、急ぎ過ぎればウイルスの第2波を招き、ただでさえ高い80歳以上のCOVID-19死亡率に追い打ちをかけることになる。

パンデミック初期、各州や病院では人工呼吸器が不足した場合に誰に割り当てるべきかという議論が起きたが、提案されたガイドラインの中には若者を優先するものもあった。大半の医療施設はそうした判断を下す事態までは至らなかったが、議論が示唆すること――高齢者は救命医療を受けるに値しない――は、今もなお尾を引いている。「さながら、道徳観に関する大規模な心理学の実験をしているかのようです。救うべきは経済か、それとも高齢者か。現実に、人々はこうした道徳上のジレンマに陥っています」とヒルシュベルガー博士。「高齢者は二重の意味で被害者です。ひとつには、実際に病気の被害者であること。それと同時に、『あなた方は用済みです』と言わんばかりの社会風潮の被害者でもあるのです」

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Translated by Akiko Kato

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