ローリングストーン誌が選ぶ「アニメーション映画」ベスト40

32位『ベルヴィル・ランデブー』(2003)

1920年代のジャズ・エイジとサイレント・コメディにインスパイアされたフランスのシルヴァン・ショメ監督は、アメリカ人マフィア、ツール・ド・フランスのサイクリスト、奇妙な三つ子姉妹の歌手トリオ“トリプレッツ”といったグロテスクなまでにデフォルメされたキャラクターを総動員して一風変わった昔ながらの犯罪劇を生み出した。『ベルヴィル・ランデブー』にはキャッチーなメロディと皮肉たっぷりのギャグが目白押しだが、なかでももっともユニークなのは、その場しのぎのトレッドミル、毎日のルーティン、歌といった動きのある要素を並べてそれらがどのように展開するかを見せてくれることだ。CB

31位『フリッツ・ザ・キャット』(1972)

ロバート・クラム(アメリカの漫画家・イラストレーターで1960年代のアンダーグラウンド・コミックス運動の創始者のひとり)が生んだ、ハイになること、警官にケンカを売ること、胸の大きい女学生たちを言いくるめて集団セックスに興じることが大好きなヒップなネコのフリッツを、カルト的人気を誇るアニメーション作家ラルフ・バクシが映像化。『フリッツ・ザ・キャット』は、毒々しくも辛辣なアンダーグラウンド・コミックスという風刺として極めて強いメッセージ性を備えている(映画が気に入らなかったクラムは、新作映画を作れないようにと漫画のなかで早々にフリッツをアイスピックで殺してしまう)。初のX指定アニメーションとしての評価のせいでネコの擬人化を通じて描かれたニクソン時代のアメリカに対する反体制的な視点がかすんでしまっているのは事実だが、バクシの恐るべきアニメーションは、空虚な挑発とは程遠いものだ。大金持ち(劇中では太ったネコとして描かれている)からニヤケ顔の進歩主義者にいたるまで、あらゆる人間を標的にした真夜中のお供にふさわしい同作は、ニヒリズムとすべてをさらけ出す快楽主義が半分ずつ混ざった火炎瓶のような激しさを放っている。CB

30位『ペルセポリス』(2007)

パンクなティーンエイジャーの少女ならではの目線でイランにおけるイスラム原理主義政府の誕生を描いた、イラン出身・フランス在住の漫画家マルジャン・サトラピのグラフィック・ノベル『ペルセポリス』は、漫画史に名を残す偉業のひとつである。口紅をつけるだけで若い女性が逮捕される国で、普通の子供のように反抗したり、ヘマをやらかしたりするヒロインの成長に寄り添う同名の映画版も原作と同じくらいエネルギーに満ちあふれている(映画版はフランスのアニメーター、ヴァンサン・パロノーとの共同制作)。くっきりとしたアウトラインが印象的なモノクロのアートワークとストラピ自身の驚くべきヨーロッパへの移住体験によって同作は原作に引けを取らない、観る人を引き込む衝撃作に仕上がっている。NM

29位『Mr.インクレディブル』(2004)

クリストファー・ノーラン監督の『バットマン』シリーズによってスーパーヒーロー映画がダークなものに、マーベル・シネティック・ユニバースによって神話並みに複雑になる前から、ピクサーはマントをまとった斬新で遊び心あふれるヒーローを世に送り出し続けている。無数のスーパーヒーローものには一般市民の巻き添え被害がつきものだが、脚本家・映画監督のブラッド・バード(『アイアン・ジャイアント』で監督デビュー)は、“スーパーパワー”を持つヒーローたちが地に足のついた中産階級として普通の生活を送ろうとする姿を描き、次から次へと笑いを誘う。ようやく出番が訪れたインクレディブル・ファミリーを目の当たりにした時のワクワク感は、彼らが世界を救うからだけでなく、解放されてやっと本来の力を発揮できるからこそ感じられるのだ。力を合わせて極悪人と戦うファミリーは決して離れ離れにならないことも覚えておきたい。ST

Text: Sam Adams & Charles Bramesco & Tim Grierson & Noel Murray & Jenna Scherer & Scott Tobias & Alissa Wilkinson / Translated by Shoko Natori

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