音楽産業はインドの潜在市場を過大評価している?

Spotify最高経営責任者のダニエル・エク氏(Photo by Drew Angerer/Getty)



2019年2月にインドでサービスをローンチしたSpotify

こうした状況の真っ只中で興味深い様相を呈しているのはSpotifyだ。自ら「世界一の音声プラットフォーム」を名乗るSpotifyは、2019年2月にインドでサービスをローンチした。当時、Spotifyの創立者であるダニエル・エク氏は、インドでのサービス開始をこのように述べて喧伝したものだ。「Spotifyはインドのアーティストたちを世界に紹介するだけではなく、インド中にいるファンたちに世界の音楽を届けるつもりです。Spotifyの音楽ファミリーはぐっと大きくなったのです」

実際はどうなったか? Spotifyは、投資家向けの情報でも国ごとの月別アクティヴユーザー数(MAU)や有料登録者数を公開していない。インドについて入手できる最後の公式な数字は、現地でのローンチから2ヶ月後のものだ。いわく、200万以上のアクティヴユーザーを地域にかかえているというのだ。しかしながら、Spotifyは地域別の(北米、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、その他の地域)業績を、パーセンテージのかたちで四半期ごとに分析している。

私は、このパーセンテージの数値をSpotifyが公式に公開するグローバルなMAUと有料登録者数と合わせて用い、これらの地理的な区分ごとにどのくらいの人びとがSpotifyを利用しているか(また支払いをしているか)を四半期単位で割り出した。2つ、大事な前提を書いておこう。(1)「その他の地域」の数値はインドネシア、ベトナム、インド、中東、北アフリカ、そして日本といった多くの地域のものを合算していて、これらの地域の最大人口は25億人以上に達する。(2)したがって、この数値が反映する増加はなんであれ、該当する期間にSpotifyがインドで得ることのできた成長の最大値を表すはずだ。





注目したいのは、2019年のその他の地域における280万人の増加だ。ここから、昨年一年を通してSpotifyは最大で280万人の有料登録者を獲得したと考えられる――ただし、この数字にしても、うち一定の割合はインドネシア(人口2億6800万人)や日本(同1億1000万)、ベトナム(同9500万人)などからのものを不可避的に含んでいるはずだ。

280万人。ところで、これは13億3000万人に及ぶインドの総人口のうち、ほんの0.2%に過ぎない。

もしSpotifyやグローバルな音楽ビジネスが、ダニエル・エク氏が言うようにインドで「ぐっと大きくなる」ことを達成しようというのならば、この数字を早く上向けなければならない。特に、Spotifyの標準的なプレミアム会員の料金が1年で1189ルピーであり、現在の為替相場に照らせばひと月あたり1.31ドルであることを考えればなおさらのことだ。インドにおける有料会員増を促す目的で、昨年末Spotifyは年間料金を699ルピー(ひと月あたり0.77ドル)に下げるキャンペーンを行なった。

年699ルピーというキャンペーンはまだインドのSpotifyで行なわれている(6月30日に終了する予定)。この直接的な影響と思われるが、2020年の第1四半期には興味深い現象が起こっている。

2019年のカレンダーに見られたパターンとは違って、本年の第1四半期におけるSpotifyの新規有料会員のうち、その他の地域は顕著な割合(31%)を占めるようになった。事実、今期Spotifyがその他の地域で獲得した190万人の新規有料会員数というのは、Spotifyが同じ区分で2019年の12カ月をかけて獲得した新規有料会員数の半分以上にあたるのだ。

問題は、昨年インドで有料会員数がうまく増加しなかったプレッシャーから、Spotifyはプロモーションとしてあわてて市場価格を下げたのではないか? ということだ。今日、インドの顧客はひと月1ドル未満で一年分のSpotifyの会員資格を手に入れることができる――加えて、3カ月のあいだはまったく金を払わずにSpotify Premiumの試用ができるのだ。

こうした対策はおそらく、2020年を通して、Spotifyのその他の地域における有料会員数、特にインドのような新興地域のそれを大幅に改善するだろう。しかし、それがレコード産業のストリーミング収入に――あるいは世界における音楽の知覚価値へも――そこまで良い影響を与えることはないのではないか。すると、ワーナーのような企業が期待するようなインドへの楽観論はしぼんでしまうかもしれない。

■ティム・インガムはMusic Business Worldwideの創設者であり発行者。同メディアは2015年以来、ニュースや分析、雇用に関する情報をグローバル産業に提供してきた。ローリング・ストーン誌に週刊コラムを連載している。


Translated by imdkm

タグ:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE