シーアの「踊れるダークネス・ポップ」は2020年、いかに変容したか? 辰巳JUNKが解説

「Together」で新境地を切り開いたシーア(Courtesy of Warner Music Japan)

シーア・ケイト・イゾベル・ファーラーは2010年代のポップを征服した存在だ。

1975年オーストラリアに生まれた彼女が世界中から注目を買った契機は、2011年デヴィッド・ゲッタに勝手に歌声をフィーチャーされた「Titanium」、そして翌年リアーナに提供した「Diamonds」だろう。不本意なかたちで一気に脚光を浴びたシーアは、そのままソロ曲「Chandelier」を大ヒットさせたことで自身もポップスターとなった。もちろん、錚々たるスターたちからの楽曲制作依頼も殺到。その証拠に、2016年にはビヨンセやケイティ・ペリーに提供したものの没にされた楽曲をみずから歌う6thアルバム『This Is Acting』をリリースしている。

「踊れるダークネス・ポップ」。シーア・サウンドを表するこの言葉のポイントは、ダークとダンサブルの両立だろう。自身が抱える病や苦しみを表現することで知られるシーアだが、かつてポップソング創作ガイドラインとして「高揚するコーラス不在のサッドソングは扱いが難しい」「大衆が好むのは勝利、勝利のための犠牲、パーティータイム」と語ったことがある。つまり、ダークでヘビーなのに盛り上がって踊れる構造こそヒットの秘訣なのだ。

実例としてわかりやすいのは、パーティー・ハイライトにぴったりな代表曲「Chandelier」だろう。ここでシーアは、自身のドラッグ、アルコール中毒の経験を基にしながら、パーティーガールのデンジャラスで刹那的な遊興を歌い上げている。また、アデルから「あまりに『シーアっぽすぎる』と皆から言われたから」として提供を断られたピアノバラード「Bird Set Free」では、どん底から上昇する様、つまりは「勝利のための犠牲」と合わせて高揚するコーラスが展開してゆく。

「勝利のための犠牲」をダークかつダンサブルに描くシーア・サウンドは、メガスターたちによる歌唱作品ふくめて、2010年代ポップシーンを征服したと言っていい。では、そんな彼女は2020年代をどう始めたのか。まず、5月初頭に発表されたデュア・リパと作ったチャリティソング「Saved My Life」は、ややシンプルながら人生の苦難をドラマティックに歌うシーアらしい秀作だった。しかしながら、1カ月も経たぬうちにドロップされたジャック・アントノフ共作曲「Together」は様子がちがう。からきし、暗闇も「勝利のための犠牲」も無かったのである。

【動画】シーア 「トゥゲザー」(日本版ミュージック・ビデオ)

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