コロナ禍での抗議デモ、感染リスクは?

米カリフォルニア州ロサンゼルスで行われた抗議デモ(2020年5月30日)(Photo by Kent Nishimura/Los Angeles Times/Shutterstock)

大勢が集まる集会は新型コロナウイルスの感染拡大を引き起こしかねない。人々が警官に向かって叫ぶ場合はなおさらだ。感染リスクを最小限に抑える方法はあるのか?

警官の暴行によるジョージ・フロイドさんの死を機に抗議デモが全米に広がるなか、公衆衛生の専門家たちはこうした大々的な集会が別の問題を拡大させることに懸念を抱いている。その拡大とは、まさに新型コロナウイルスの感染拡大だ。こうした抗議活動は、フロイドさんが殺された米ミネソタ州ミネアポリスから現地時間5月26日にはじまり、はやくも30日にはニューヨーク・シティ、シカゴ、デトロイト、コロンバス、ダラス、ロサンゼルスをはじめとする30以上もの都市へと広がった——こうした都市の一部は、感染のアウトブレイクが発生した場所とも重なる。

極めて感染力の強いウイルスの拡散を抑え込むため、都市がロックダウンされ、不要不急の移動の自粛が叫ばれてから3カ月近くが経つ。有効なワクチンも治療薬もないなか、私たちが戦略的にウイルス拡散を阻止するには、主にソーシャル・ディスタンシングや公共の場所でのマスク着用といった公衆衛生上の措置に頼らざるを得ない。一部の州は経済活動再開に向けて動き出したものの、とりわけ自覚症状のないウイルス感染者数を踏まえると、その多くはデモのような活動が潜在的な危険をはらんでいるレベルであることに変わりはない。

「自覚症状のない人々によって構成される大きな集団が存在する可能性を考えると、抗議デモのような「活動」の性質上、ソーシャル・ディスタンシングが難しい場合は当然、新型コロナウイルス感染の懸念があります」とニューヨーク州のコロンビア大学公衆衛生大学院で疫学の助教を務めるバルン・マシーマ医師はローリングストーン誌に述べた。「言うまでもなく、法的措置をめぐって人々が対決している場合はなおさら危険で、これは憂慮すべき事態です」。

感染症の専門家であり、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターでシニア・スカラーを務めるアメッシュ・A・アダルジャ医師は、公衆衛生の観点から大々的な集会にはSARS-CoV-2(新型コロナウイルスのウイルス名)のようなウイルスの感染拡大の懸念がつきまとうと語る。「ウイルスは、人間同士のあらゆる交流を利用します。それが抗議デモであれ、ロックバンドのライブであれ、容易に感染が拡大するのです」と医師は本誌に語った。

アダルジャ医師は、怒鳴ったり叫んだりといった抗議活動中の行為に対してとくに警鐘を鳴らす。医師いはく、こうした行為によってウイルス感染を引き起こす飛沫が多く発生してしまうのだ。「抗議者がどれくらい社会的距離を保っているかにもよりますが、コロナ時代だからこそ、あらゆる大規模集会には感染拡大のリスクがあることを危惧しなければいけません」さらに医師は続ける。「ワクチンが開発されるまで、私たちはウイルスと共存しなければいけません。だからこそ、2メートルという社会的距離が確保できないすべての社会的交流がウイルスにとっては人を感染させ、さらに別の人へと感染を広めるチャンスとなってしまうのです」。



パンデミック下の抗議デモには、さらなる課題がある。オハイオ州クリーブランドのユニバーシティ・ホスピタルズの感染症の専門家であり、同じくクリーブランドのケース・ウエスタン・リザーブ大学で薬学の助教を務めるエリー・サーデ医師は、マスクを着けている人が催涙ガスを浴びた場合、マスクに付着したガスによって肌荒れを起こすおそれがあると述べた。そんな時、マスクによる不快感に耐えられなくなった一部の人がマスクをとることで、ウイルスにさらなる感染拡大のチャンスを与えてしまうのだ。「抗議中の人々は密状態となるでしょう」と医師は本誌に語る。「それに加え、何が起きるか予測できない状況です。カオスのようなパニックだって起きかねませんから、人々はマスクを着けるよりも逃げたり、反撃したりすることを優先するかもしれません。これよってかならず感染のリスクは高くなります」。

Translated by Shoko Natori

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