ローラ・マーリングのエクスクルーシブなライブ配信――チケットは定員いっぱいまで売り上げた――が示唆するのは、アーティストたちにとってより収益性の高いオンラインパフォーマンスの鍵は「希少性」にあるということだ。「重要なのは、これはきちんとしたショーなのだという事実を確立することなんです」とマーリングの共同マネージャーは語る。「これまで私たちが無料で配信してきたようなコンテンツとはまったく異なるとすぐに感じられますよ。ああ、なんということか、業界の人間として抱える大きな悩みのタネといえば、私たちは気づけばヴィジュアルコンテンツをInstagramやらFacebookやらそこらじゅうでタダで配信してしまってるってことです」――リック・サーモン、ATCマネジメント希少性の原理によると、手に入れるのが難しいものほど、それに金を払いたがる人が増えるという。現代のレコード産業はこういった考え方にあまり乗り気ではないようだが――メジャーな新譜を有料限定のプラットフォームに留める、という考え方をまるきり退けてきたのだから。しかし、ライブ配信という急成長分野では、既に事情はやや変わってきているように見える。
●音楽業界の救世主となるか? コロナによって勢いを増すライブ配信事業パンデミックの影響で人気を博したインスタグラムの
「Verzuz」シリーズは、音楽ビジネスでいま注目の話題だ。710,000人もの人びとが同時に「チャンネルをあわせ」て、ジル・スコット対エリカ・バドゥのようなアーティスト同士が交わすバトルを見ているのだ。問題は、これらの観客は誰も実際には何にも金を払っていないということ。ティーガン&サラのサラ・クインは、
ガーディアンのインタビューで状況をこんなふうに要約してくれた。「私がためらっているのは、[ライブ配信は]タダ働きの一種で、それで儲けているのはInstagramやFacebookやTwitchだから。セルアウトしたり、「お金がいる」とか「ファンには対価を払ってほしい」って言うのはクールじゃないってわかってるけれど、自分はアーティストとしてこういうふうに思います。私たちはそういうことを率直に話すことに気兼ねしない必要があるって」
クインと同世代のとあるアーティストは、この問題を解決しようと希少性の原理を活用し、その実現のためにファンたちに特別なものを提供しているところだ。