ライブ配信の収益化を実現させるには? オンラインパフォーマンスの鍵は「希少性」

「採算がとれる」ライブ配信を実現するために

6月6日土曜日、シンガーソングライターのローラ・マーリングはロンドンのユニオン・チャペルで2本のライブを予定している。ATCマネジメントに所属するマーリングの共同マネージャー、リック・サーモンによると、コンサートは有料チケットを購入した「何千という観客」の前で行われるという――ユニオン・チャペルの物理的な定員は最大で900人であるにも関わらず。

マーリングはこれらの公演をオンラインで限られたオーディエンスに向けて配信する。オーディエンスは12ドル(もしくは12ポンド)を払ってアクセス権を得た人びとだ。エクスクルーシブな感覚を加えるため、一方のコンサートはマーリングの北米のファンベースに向けてジオロック[訳注:地域による視聴制限]され、もう一方の早い時間の公演は、イギリス国内からのみ視聴可能になるとのこと。サーモンいわく、前者の公演は「売り切れ」で、もう一方もじきに売り切れる見込みだそうだ。当然ながら、このキャパシティはATCが自ら設けたものだ。ATCは撮影と制作に関する先行投資を重点的に行っているが、サーモンによれば、そのなかにはヴェニューを借りるコストだけではなく、「4~5台のカメラを使ったセットアップ」も含まれているのだという。


ローラ・マーリングは最新アルバム『Song For Our Daughter』を4月にリリースしたばかり


DICEのホームページに掲載された、ローラ・マーリングの公演情報

マーリングのライブ配信はYouTubeがホストするが、チケット販売やジオロック、ほか高度な技術面はDICEが請け負っている。DICEはイギリス拠点のデジタルチケット販売会社で、最近はDICE TVという部門を通じてライブ配信イベントに力を入れ始めた。DICE TVはアーティストたちによるオンラインライブ配信の激増を受けて4月にローンチ。最初に手掛けたイベントは4月3日~5日開催されたデジタル・マイレージ・オンライン・フェスティバルで、慈善のため20万ドル以上を集めた[訳注:利益はアーティストを経済的に支援する団体Sweet Relief Musicians Fundに寄付された]。

DICEのCEOフィル・ハッチオンは、スポーツイベントのテレビ中継がペイ・パー・ヴューで見られていることについて考えだすまで、音楽パフォーマンスのライブ配信が持つ知覚価値に懐疑的だったという。「たくさんのアーティストたちがInstagram Liveに挑戦して、数曲歌うのを見ていました」とハッチオン。「それを見て思ったんです。『なんで誰もこれをきちんとしたやり方でやっていないんだろう? なんで誰も課金していないんだ?』」

デジタル・マイレージを終え、続くいくつかのイベントを経て、DICEは人気上昇中のイギリス発スターであり、アメリカでもチャート首位を獲得したルイス・キャパルディのライブ配信を行った。彼は5月16日、スコットランドはバスゲイトの実家から、オンラインセットを演奏して評判となった。チケットはひとりあたり5ポンドで、利益はメンタルヘルス支援団体のCALMに寄付された。マーリングの公演がそれと大きく違うのは、「きちんとした」ヴェニューで開催される予定だということと、12ドル/12ポンドで販売した「何千もの」(サーモンは正確な数字を言おうとしないが)チケットは、数万ドルに及ぶ利益をマーリングと彼女のチームにもたらすということだ。

この利益も、マーリングがいままさに行っていたはずの仕事――COVID-19が直撃したとき、彼女は48日間にわたるワールドツアーでオーストラリアをまわっていた――の金銭的な埋め合わせとしては不十分なものだが、サーモンによれば、「採算がとれる」公演としては十分だという。

Translated by imdkm

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE