コロナ偽情報をまき散らす動画で注目集めた博士、陰謀論者が絶賛する理由

2011年、ネバダ州リノにあるウィットモア・ピーターソン神経免疫疾患研究所で研究主任を務めていた頃のジュディ・ミコヴィッツ博士(Photo by David Calvert/AP)

ジュディ・ミコヴィッツ博士は、反ワクチン派の間ではよく知られた科学者だ。パンデミックは仕組まれたものだったと告発する偽情報満載のドキュメント動画『Plandemic』で注目を集めた。

新型コロナウイルスによる死者は水増しされている、マスクのせいでウイルスの感染が広がるなど、ミコヴィッツ博士の主張が虚偽であることは周知の事実にもかかわらず、右派陰謀論者や有名インフルエンサーの後押しもあり、26分間の動画はソーシャルメディアで爆発的に拡散された。FacebookとYouTubeは自社の嘘情報禁止ポリシーに違反しているとして動画を削除したが、主張のほとんどが完全に否定されているにもかかわらず、現在も様々なソーシャルメディアで広くシェアされ続けている。

【動画】YouTubeでは削除されているが、別の博士がファクトチェックした検証動画は公開されている

ミコヴィッツ博士は2009年に発表した、慢性疲労症候群をマウスのレトロウイルスと関連づけた研究が否定され、サイエンス誌から撤回された後、ネバダ州のウィットモア・ピーターソン神経免疫病研究所の研究主任のポストを解任された(2011年11月、ラボから自分のノートを盗もうとしたとして逮捕されたが、最終的には不起訴になった)。最近、ミコヴィッツ博士は自らの失脚を、ワクチンの安全性に疑問を投げかけようとしたところを医学会に口を封じられたという筋書きに言い換え、反ワクチン派の間ではある種の内部告発者として、ちょっとした有名人になっていた。

だが『Plandemic』人気のおかげで、ミコヴィッツ博士の主張はメインストリームでも注目を集めるようになった。4月以降、彼女のTwitterのフォロワーは10万人以上増え、2020年に出版した著書『Plague of Corruption(原題)』はAmazonのベストセラーリストを一気に駆け上り、現在7位にランクインしている(一時はファン待望の『トワイライト』シリーズ最新作を凌ぐほどだった)。実際、スタンフォード・インターネット・オブザーバトリーの研究員、レネー・ディレスタ氏のスレッドによれば、ミコヴィッツ博士の『Plandemic』出演は『Plague of Corruption』の宣伝のためだったという証拠がある。出版元である独立系出版社Skyhorse Publishingはこれまでにも数々の陰謀論を展開する本を出版してきた。またAmazonの代理人はローリングストーン誌に対し、『Plague of Corruption』は「弊社のコンテンツ規定には違反していません」と回答した。

反ワクチン派ブロガー、ケント・ヘッケンライブリー氏との共著(反ワクチン主義の広告塔、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の序文付き)『Plague of Corruption』は、一見した限りでは、ベストセラー入りしそうには思えない。科学的な専門用語が満載で、一般的な読者にはほとんど理解不能。医学会内部の因縁や諍いが無数に紹介されていて、一冊の本というよりは、解雇されて腹の虫が治らない親戚が、1万ワードにも及ぶ元雇用主の悪口をFacebookに投稿したかのようだ。しかしミコヴィッツ博士は読者をよく心得ており、自分を拒んだ体制への恨みつらみを抱えた不名誉な科学者ではなく、巨大組織に立ち向かう勇気ある内部告発者として描いた。

Translated by Akiko Kato

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