The 1975のマシューが語る、怒りと希望のメッセージ「美しさはこの世で一番鋭い武器」

優れたアートは世界の真実を暴いてくれる

―こんにちは。今、東京から電話をかけています。

マシュー:そっちはどう?

―うーん、決していいとは言えないですね。COVID-19に関して、政府のリーダーシップや補償については問題が絶えないし、みんなも徐々に心を失ってる感じです。UKはどう?

マシュー:同じような感じだね。なにが起きてるのか誰もわからないし、誰もメディアを信じていない。世の中の話題はもうこれ一色になってしまってるし、すべてを持っていかれたような感じだよね。



―そんな世界でリリースされる『Notes On A Conditional Form(以下、NOACF)』は、マシュー自身の心情や人生がとても正直に、誠実に、曲に落とし込まれている作品だと感じました。なぜ、自分のことをここまで正直に書くのがそれほど大切だったのか、教えてもらえますか。

マシュー:もはや僕にとって、他に曲を書くポイントが見つからないというかね。今はもう自分のエゴはどうでもよくて、自分にできることはなにかということに焦点を置くようになったんだ。そんな中でこのアルバムは……僕たちはもう18年くらいバンドをやってるけど、なぜ今も続けているかというと、ただ音楽を作ることが好きだからで、自分のリアルな人生以外のことから音楽を作るのは難しくなったんだよね。

―その中で、名声を得たロックスターとして生きるしんどさも赤裸々に書いていますね。

マシュー:僕は、ロックスターとして生きてないよ。たくさんのガールフレンドに囲まれて暮らしてる、とかもないしね(笑)。ショーはやってるけど、僕の人生はノーマルで、こじんまりとしたものなんだ。だからみんなから「信頼できないやつだ」とは思われずに、こうやって曲を書いてリリースすることを続けられているんだとも思う。僕がもがいているものは、ロックスターとしてではなく、ドラッグ中毒とか、あくまでひとりの普通の人間としてのものであって、多くの人々が向き合っているものだと思ってる。それに、自分のことをロックスターとして見ていないからこそ、より苦しんでるのかもしれないね。

・The 1975のマシューが語る、テイラー・スウィフト、ドラッグ、ロックについて


「The Birthday Party」では“僕がクリーンなままでいられるかは友達次第”という歌詞のとおり、ドラッグ中毒からのリハビリ生活や誘惑との闘いが描かれている。

―まさに、それこそがThe 1975がこの時代のヒーローに選ばれている理由だと私も思います。昨年サマーソニックでライブを観たときも、The 1975は私と同じような不安や悲しみ、緊張、怒り、そして喜びや愛を感じているんだ、ということを受け取れたのが感動した理由のひとつでした。

マシュー:そう言ってもらえるのは嬉しい、でも……あの日のステージについては申し訳なく思ってるよ。原因は忘れたけど、あの日はとても落ち込んでいたんだ。なにかに怒って、イライラして、やけになってたことを覚えてる。その感情を「SUMMER SONIC」のオーディエンスにぶつけてしまっていたと思う。それでもいいショーだったとは思うし、僕もあのショーはお気に入りだよ。だから、君がそう感じてくれたのなら嬉しい。


「サマソニ現地レポ The 1975が大観衆に見せつけた、世界最高峰のロックバンド像」より(Photo by Kazushi Toyota)

―日本のオーディエンスの多くが感動し称賛したステージであったことは間違いないです。先日、The 1975とレーベルメイトであるリナ・サワヤマにインタビューしたのですが、彼女は、豊かなアートに必要なのは「正直さ、真正さ、多様性」だと話していたんですね。マシューにとって、アートの豊かさとはなんですか?

マシュー:「わからない」。それがポイントなんだよね。わからないから、僕はずっと夢中になっているんだ。なぜ人間はアートを作るのか、僕も知りたいと思ってる。だって、意味わかんないよね。アートから人はなにを得られるのか、いまだに誰も正確な答えを知らないのに続けているだなんてさ。「なぜ僕は音楽を作り続けるんだろう」「これが僕になにをもたらしてくれるんだろう」っていつも思ってるよ。でも、きっと僕になにかをもたらしてくれているし、確実にこの世界にもなにかをもたらしてくれているんだよね。最も優れているアートやコメディは、世界の真実を暴いてくれる。ときに人は、真実を見つけるために異なる主観を持たなければならないから。

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