NYの三つ星レストランが炊き出し施設に変身、シェフが語る飲食業界の未来

レストランの役割を再定義する

レストランがケータリングを始め食事に困っている人々に手を差し伸べ、通常の店内営業に戻った後もこれを継続するという考えにハム氏は惹かれている。彼はこれまでも料理界のイノベーターと呼ばれ、業界全体が進む方向とは真逆の道を歩むのも厭わなかった。こうした姿勢が、2017年Eleven Madison Parkに世界最高のレストランの称号をもたらした。その年の夏、ハム氏は当時のビジネスパートナー、ウィル・グイダラ氏と共に、店を文字通り解体し、一から建て直した。ハム氏曰く、今年の秋にも再改装を予定していたが、パンデミックによって業界全体が生きるか死ぬかの瀬戸際に追い込まれてしまった。「今の時点では、Eleven Madison Parkを続けるかもわかりません」とハム氏。「私たちは常に次のステージを探しています。今がそのときです。この店にとっても、クリエイターの私にとっても、これが私の決断です――他でもない、私の心の声がそう言っているのです」

自分の持っている物で困窮している人々に食事を提供しているレストラン経営者はハム氏だけではない。人道支援家でもあるシェフ、ホセ・アンドレス氏は、自ら設立したWorld Central Kitchenを通じて何年もこうした活動を続けている。5月5日には、ジム・マクガバン下院議員(民主党、マサチューセッツ州代表)や他数名の議員と組みFEED法案を提出した。可決されれば、必要としている人々に食事を提供しているレストランが連邦からの援助を受けられるようになる。他にもルカ・ディ・ピエトロ氏は、マンハッタンで経営していた5軒のレストランのうち4軒を休業せざるを得なくなった後、Feed the Frontlines NYCという団体を設立し、直接コロナウイルス対策に乗り出した。「仕事に戻れる人がいて、食べる物に困っている人がお腹を満たせるなら、Win-Winじゃありませんか」とディ・ピエトロ氏は言う。

レストランの存続は、こうした包括的かつ画期的な取り組みにかかっているのかもしれない。その根底にあるのは、滞りなく経営することだけではなく、コミュニティーを育み、そしてもちろん食事を提供したいという願いがある――それこそまさに、多くのレストラン関係者がこの業界に入ったそもそもの理由だ。史上最大の危機の真っ只中で飲食業界が再構築に動き出す中、そうした根本的な目的を維持できるか? パンデミックをきっかけに、多くの人々が思いを巡らせている。

「僕が作りたかったのは、人々が集う場所です。そこで思い出が作られ、人間関係が生まれ、コミュニティーが生まれ、生活が豊かになるような場所です」とスタルマン氏は言う。現在は失業した従業員のために、無料の食料品店を運営している。「デリバリーなり自宅調理なり、新たな世界を想定してビジネスモデルを変え、持続可能な方向に転換することも出来るでしょう。業界にとっても上手くいくかもしれない。だけど、それが僕のやりたいことなのだろうか?」

Translated by Akiko Kato

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