NYの三つ星レストランが炊き出し施設に変身、シェフが語る飲食業界の未来

業界の仕組みを変える新たな取り組み

ハム氏が思い描く改革にも答えがいくつか必要になるが、少なくともそのうちのひとつはRethinkにあるのではないか、と彼は考えている。ハム氏のスタッフがブロッコリーの茎を刻み、ボロネーゼを取り分ける間、マット・ジョズウィアック氏とウィンストン・チウ氏はEleven Madison Parkの厨房の裏にあるオフィスでビデオ会議や、レストランで備蓄していた衛生用品の在庫を確認していた。ジョズウィアック氏はEleven Madison Parkの厨房で働いていたが、2017年に退職し、戦略主任を務めるチウ氏とRethinkを設立。設立目的は、レストランや食料品から出る食品廃棄を再利用して、炊き出し用の食事を作ること。Rethinkは、コロナウイルスが業界全体の仕組みを根本から変えるチャンスだと考えている。それはすなわち、業界の見られ方も変えることでもある。

「レストランは経済活動への入り口です」とジョズウィアック氏は言う。「僕は低所得家庭に生まれました。カンザス出身で、大学に行く余裕がなかったので、皿洗いとして働き始めました。1時間働いて15ドル貰える唯一の仕事です。レストランでは従業員研修が受けられますし、言語スキルも学べます。賄いも出ます。レストランとはコミュニティーなんです。ただビジネスの競争に呑まれてしまった。今こそレストランを評価するべき時です。ミシュランの星の数がどうとかではなく、コミュニティーセンターとして評価するべきです」

短期的には、Eleven Madison ParkとRethinkの協同活動は困っている人々を養うと同時に、現金収入ももたらしている――スポンサーのAmerican ExpressとResyのおかげもあり、ハム氏はスタッフの一部を再雇用することが出来た。ハム氏には、このモデルを永続させることが出来ない理由が見当たらない。「私の前にあるのは、食料と飢えです」と彼は言う。「今は1日3000食を作っています。ここにスタッフは12人だけ。ある意味、かなり楽な商売ですよ。それなら、なぜ普段からこうしていないのでしょう? なぜ危機が起きるまで放っておいたのでしょう? なぜこの国から飢えがなくならないのでしょう? 食料も厨房の数も十分足りています」

RethinkはEleven Madison Parkのモデルを全国で展開したいと考え、フロリダからカリフォルニアまで、レストランオーナーとコラボレーションを交渉している。「僕たちはレストランに現金を渡したいんです」とジョズウィアック氏。「最低限の収入源が確保出来れば、レストランも営業を続けられ、スタッフも雇用し続けることが出来ます。状況が良くなるに連れ、この仕組みも定着し、完全な現金不足に陥らずに済みます」。このような仕組みを最終的には連邦政府に運営してもらい、パンデミック後も継続してもらいたいと、ジョズウィアック氏とチウ氏は考えている。

Translated by Akiko Kato

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