NYの三つ星レストランが炊き出し施設に変身、シェフが語る飲食業界の未来

飲食業の売上額はアメリカの年間GDPの4%を占める

43歳のハム氏は14歳から厨房で働いている。アルプスの五ツ星ホテルで名を上げた後、2003年に渡米。以来、ミシュランガイドの常連となった。いわば、彼は現在の危機を「楽しみだ」と言える恵まれた環境にいる、稀有な集団に属していると言えよう。だが、飲食業界が突如お先真っ暗となったとき、彼も他の人々と同様に衝撃を受けた。ほとんどのレストランオーナー同様、最初に頭に浮かんだのは従業員を守ることだった。だが、すぐに無理だと気がついた――少なくとも、従来のやり方では。「今回の一連の出来事で学んだことは、あっという間に孤立無援になる、ということです」と彼は言う。「雇われる側には理解できないでしょう。彼らは雇い主が何とかしてくれるだろうと考えますが、無理なものは無理です」

Eleven Madison Parkも飲食業界、とりわけニューヨークの飲食業界の例に漏れず、わずかばかりの利益で営業していたため、レストラン業界は特に、長期化するロックダウンを乗り切る準備が出来ていなかった。高騰する家賃、人件費、原材料費に、デリバリー費用、その他様々な要因で、個人オーナーの手元に残る現金はほぼゼロの状態だ。「過去10年間、レストラン業界は過剰なほど厳しい制約を受けています」と言うのは、ソーホーにあるカフェWest-Bourneのオーナー、カミラ・マーカス氏。「うちの営業利益率は良くてせいぜい10%。それがレストランの目標値です。大半の業種では、売上の90%が飛んでいくなんてあり得ないでしょう。考えてもみてください。他のどの業界でも、こんな常識は通用しません」

政府と医療業界に次ぐアメリカ最大の業種にしては、不安定なビジネスモデルだ。ある業界団体によれば、飲食業の売上額はアメリカの年間GDPの4%を占め、1200万人(間接的なものも含めればさらに数百万人)の雇用を創出している。全米のレストランの大多数が個人経営だが、今まで単一事業所が政治的影響力を持ったことはない。あまりに多種多様な業界だからというのもあるが、個人オーナーは金の工面以外の心配をする暇がない、というのもある。「小さなレストランには非常に難しいですね」と、イグナシオ・マトス氏は言う。ジェームズ・ビアード財団賞の受賞歴を持ち、ニューヨークに3軒のレストランを構えている。「業界のシステムは、個人事業主を支えるようには出来ていないんです。ろくな保護もありません。頼れるのは自分だけです。食い物にするような連中が多過ぎる中、利潤は雀の涙ほどしかありません」

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE