パンデミックの衝撃、アメリカは「集団的トラウマ」をどう乗り越えるのか?

ウイルスだけではない――パンデミックの中での生活は、永遠に消えない傷を社会に残すだろう (Photo by Steve Sanchez/Pacific Press/Shutterstock)

世界的パンデミックに対応するとき、身体的疾患の予防と治療に注目が集まりがちだ。だがこの2カ月間で判明した通り、新型コロナウイルスの大流行による精神的、感情的ダメージも無視できない。

幸い状況もいくらか落ち着き、疲弊の一部はコロナ疲れによるものだと受け入れ、パンデミックによって引き起こされた喪失感や哀しみを「悲嘆」と呼ぶようになった。収束後の生活は一体どんな風になるだろうと考える余裕はまだない人も多い――そしてそれにはまだ程遠い――が、今回の公衆衛生危機が社会全体に及ぼす影響を考える価値はある。直感に反するように見えるかもしれないが、パンデミックを乗り越えつつある今、過去を振り返ることが、これまで人類が集団的トラウマをどう乗り越えて来たかのヒントを見つけるのに役立つだろう。

集団的トラウマという概念は新しいものではないが、今知られていることの大半は、ホロコーストの生存者及びその第2世代の臨床研究に基づいたものだ、と集団心理学の専門家モリー・カステロー博士は言う。集団的悲嘆、トラウマの第一人者、ヴァミク・ヴォルカン博士の業績をつぶさに描いたドキュメンタリー映画『Vamik’s Room(原題)』の監督でもある。だがアメリカの歴史を振り返ってみると、第二次世界大戦以前から集団的トラウマの例は無数にある――アメリカ原住民の虐殺、奴隷制度、原爆、ベトナム戦争、9.11、そしてごく最近では移民親子の分離拘束。「この集団的感情体験の中心にあるのは無力感です」と博士はローリングストーン誌に語った。

そもそも、集団的トラウマとは何か? カステロー博士によると、大人数の集団――国や宗教、人種、民族など――が大きな心の痛みを経験すると、傷ついた者の間に感情的な繋がりが生まれるという。「そもそも集団的トラウマとは、集団の中で無力感や失見当識、喪失感などが共有されることです」と博士は説明する。「脅威的な出来事をきっかけに共通意識が芽生えます――被害者の性格や背景、対処法や柔軟力がそれぞれ違っていたとしてもです」。時に、集団的トラウマは世代から世代へ継承されることもある。無意識な言動や(強制収容所で飢餓を経験した父親は、息子を競争の激しいスポーツで鍛えようとする)しつけ(トラウマを抱える親は、感謝の気持ちを示せ、弱みは見せてはいけない、と子供に強く要求する)、あるいは悲劇的事件の回想を通して、自らのトラウマを子供世代に受け継がせる場合がある。

【画像】精神病を偽り20年生きてきた男の「誰も救われない悲劇」(写真)

カステロー博士によると、我々はすでに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で集団的トラウマを経験しているという。「これは公衆衛生の大惨事です。民主主義とその理想像の崩壊です」と博士は言う。「あまりにも多くの死――高齢者、弱者、地元の医療従事者、救命隊員――によって、私たちは日々トラウマを共有しています」

Translated by Akiko Kato

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