大手レコード会社の重役たちが明かす、Withコロナ時代のマーケティング戦略

物理的なやりとりが困難となっている今、アーティストやレーベルはオンラインの世界で存在感を示す方法を模索している。(Photo by Eric Risberg/AP/Shutterstock)

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、米国のあらゆるレコード会社のマーケティングチームはあるキーワードを共有するようになった。それは「クリエイティブであれ」だ。

キャリアの浅いアーティストたちにとって、既存のファンベースの強化と新たなファン層の獲得を目的とするツアーは不可欠だが、今はそういった従来のマーケティング戦略を使うことができない。ロックダウンが2カ月に及ぶなかで、大小様々なアーティストが実施しているライブストリーミングは既に飽和状態だ。物理的なやりとりが困難となっている現在、アーティストやレーベルは競争率の激しいオンラインの世界で存在感を示す方法を模索している。

デジタル戦略の中には比較的ストレートなものもある。2020年の第1四半期だけで3億ダウンロードを達成したTikTokへの投資は、最近目覚しい成果を上げている。またアーティストによるパフォーマンスを自宅等からInstagram Liveで生配信する動きもあれば、より大々的なバーチャルパフォーマンス等も行われている。

「クリシェかもしれませんが、発明とは必要性の中から生まれてくるものです」。エピック・レコーズの上級副社長であり、マーケティング部門を統括するデヴィッド・ベルはそう話す。「3月初旬にオフィスをシャットダウンする前に、シルビア・ローヌ(エピックのCEO)は大きな方向転換を図り、こういったマーケティングに注力することを決めました。私たちがブレインストーミングから得たアイディアをアーティストたちが早急に実施すると、それらは見事成功を収めました。私たちは先手を打ったのです」

トラヴィス・スコットはデジタルマーケティングの勝者だ。彼とCactus Jackが組んで「フォートナイト」を舞台に実施したバーチャルコンサートは、記録的な成功を収めた(スコットはエピックと契約しているが、この企画は彼のチームが独自に実現させた)。

【動画】バトルロイヤルゲーム「フォートナイト」の中で開催されたトラヴィス・スコットのバーチャルコンサート

スコットの代理人は、パンデミックが同イベントの話題性を後押ししたとしている。1200万人のファンがゲームの世界で行われたそのコンサートを視聴し、新曲「The Scotts 」(featuring キッド・カディ)は全米チャートで初登場1位を記録した。同イベント後にはスコットの過去作の人気も再燃し、ローリングストーン誌のTop 200アルバムチャートにおいて、2018年作『アストロワールド』は29位から10位圏内へと再浮上した。過去のシングル曲「SICKO MODE」と「Highest in the Room」も、同ランキングのシングルチャートでTop 30入りを果たした。

普段は物理的マーケティングの円滑化を担っているエピックのツアーマーケティングチームは、現在はデジタル方面へと完全に舵を切っており、全アーティストのバーチャル空間での露出スケジュールを管理している。ベル曰く、同チームの稼働率はパンデミック前から変わっていないという。

「当初から私が言っているのは、これがマインドセットのシフトチェンジだということです」。ベルはそう話す。「私は自分に言い聞かせていました、時代は変わったのだと。当然私たちのすべきこと、そして日々のオペレーションも変わってきます。デジタル化の動きは加速しており、レコード会社のあらゆる部署は既にデジタル専門のチームを作っています。それは巨大な変化というよりも、唐突に突きつけられた課題というべきでしょう。それでも私たちはスムーズに稼働しており、多くの音楽を発表し続けています」

Translated by Masaaki Yoshida

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