山田健人が語る2010年代「映像表現に希望が持てる未来を」

死後100年残る映像を作れたらいいという感覚でやっている

2017年、宇多田ヒカル「忘却 feat. KOHH」のディレクションを務めたことで、彼の作家性はさらに大きく広まり、浸透していく。本作を筆頭に2017年はYogee New Waves、OKAMOTO’S、Tempalay、水曜日のカンパネラなどの近しい関係にあるアーティストだけではなく嵐やGLAY、米津玄師などのMVも手がけ、名実ともに日本を代表する映像作家の仲間入りを果たした。

「それまで周りにいる10人が自分の作る映像をカッコいいと言ってくれていたけど、世の中の人たちにカッコいいと言ってもらえる普遍的な表現を追求する必要性を感じたのが2017年ですね。自分の立ち位置を見つけたのもそのタイミングで。アート然とした方向に振り切れることもできたけど、音楽ジャンルに分け隔てなく仕事することに意味があると思ったし、自分の映像を媒介にしてマスとコアを一つにしたいという気持ちが生まれたんです。ストレートに言えば、『いいものはいい』という考え方。映像はそれを提示しやすい表現だと思った。そのうえでテクノロジーや技術ベースではなく、人間の文化の中で長く残っていく作品を作りたいという欲求がどんどん増していきました。極論を言えば、自分が生きている間に死後100年残る映像を作れたらいいという感覚でやっています」

2020年以降は、映像を起点にライブ全体の演出を積極的に手がけていきたいという。さらに、映画を撮ることも現実的な未来として描いている。今の山田健人を突き動かしているのは、日本のエンターテインメント産業の構造に対する危機感でもある。

「正直、自分が死んだあとのことを考えていて。まだ生まれていない自分より50歳下の子どもたちが将来の夢に“MV監督”と書ける状況にしたいというのが今の目標なんですね。そのために業界の仕組みを変えないといけないし、自分がゲームチェンジャーになってそれを果たしたい。少しずつ変えられる可能性もあると思うから、今は社会や政治のことも勉強しながら映像を作っています。とにかく映像表現に希望が持てる未来を子どもたちにつなげていきたいですね」

・山田健人が選ぶ、2010年代の代表作

Suchmos「In The Zoo」



SuchmosのMVに関してはつねに自分の好きな感覚を更新している自負があるのですが、「In The Zoo」は過去最高に僕の映像とSuchmosの音楽を融合できたと思います。彼らがこの曲を作ったときの心情とリンクする形で自分の好きな映像表現に落とし込めた。ある種の不安定さを陰と陽が共存した映像の中でまとめていて、そのための努力もかなりしました。バンドもこれまでのアルバムはそのときのノリやフィーリング重視で制作できたと思うけど、「In The Zoo」が収録されている『THE ANYMAL』というアルバムは自分たちのリアルな葛藤と向き合った作品だと思うから、僕もそこに寄り添った映像を撮りたかった。個人的に一番好きなシーンはバンドロゴが映し出されてラスサビに入っていくところで、そのときに一瞬、鳥が羽ばたく画と海の画がインサートされるんですね。あのシーンは編集しているときにこれしかない、と思いました。一般的な演出であれば、あのシーンはYONCEの顔の1カットにするはずで。あの画をこの曲に差し込めるのは、これまで彼らと深い付き合いをしてきた僕しかいないと思いますね。


宇多田ヒカル「忘却 feat. KOHH」



個人的にすごく思い入れのある作品ですね。本当に考え抜いて制作したし、すごく完成度の高いMVだと思います。当時の僕にとって、宇多田さんのMVを撮るという緊張感はものすごくありました。精神的に追い詰められて現場で嘔吐したほどです(笑)。でも、この作品を撮ったことで今はどんなビッグネームのアーティストを撮るときもイヤな緊張感を覚えなくなりましたね。現場ではテーマを一つ設定しました。それは宇多田さんにも、KOHHさんにも何度も歌唱シーンをさせたくないということで。あれだけの曲を何度も現場で歌わせるのは絶対に違うと思ったから。実際に歌唱シーンは2、3テイクしか撮らなかったです。そこまで思ったのはこの作品が初めてであり、今のところ最後かもしれないですね。


yahyel「TAO」



僕にとってyahyelという場所があることで、作家性を担保できるのは大きなことで。自分がバンドのメンバーであることでデモの段階から曲を聴いたり日常的にイメージを共有できたりするわけで、MVでも初めて仕事をするアーティストとは違う純度の高さや親和性、化学反応がやっぱりありますよね。そのうえで演出の抑制をためにためて、最後にホームランを打つタイプのMVとして、自分が手がけた作品群の中で一番秀逸なのが「TAO」だと思います。限られた予算の中で、上手く最後にホームランを打つためにアイデア勝ちできた。このロケ場所は、King Gnuの「白日」とかいろんな作品で使われているんですけど、使い方がかなり斬新だと思います(笑)。

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