米音楽業界、コロナ禍におけるレコード契約の実情

ロック系アクトとの契約は減少傾向にある

今年の上旬、アトランティックはTeddy Swimsというアーティストとの契約を検討していた。結果的に彼は同社の姉妹レーベルであるワーナー・レコーズと契約したが、アトランティックは彼を迎えるために多くの時間と労力を割いたという。「ジョージア州出身の彼は、テディベアのような巨体で顔にタトゥーを彫っているんですが、ものすごくゴージャスな声の持ち主なんです」。ガンズバーグはそう話す。「ボニー・レイットの“夕映えの恋人たち”のカバーがバイラルヒットして、誰もが彼に夢中になりました。私たちは彼をニューヨークに呼び寄せたのですが、直に会ってますますファンになりました」



Swimsとガンズバーグはどちらもミュージカルの大ファンであり、「ダンスの最もロマンティックなパートのような親密さ」を互いに感じていたという。「彼はミュージカルが大好きで、私はアトランティックで数多くのミュージカル作品を手がけています。『君はどれくらいの頻度でこの街に来るんだい? せっかくニューヨークにいるんだし、ショーでも観に行ったらどう?』。私がそう持ちかけると、彼はこう答えました。『もちろん! 喜んで行かせてもらうよ』。『ハミルトン』だったか『ディアー・エヴァン・ハンセン』だったか忘れましたが、私たちが音楽を監修したどちらかのショーに彼を招待しました。確か母親を連れて行ったと思うんですが、ショーを堪能したようでしたよ」

レーベルについて知ってもらう上で、アーティストと直に会って話すことは大切だとガンズバーグは話す。彼はいつもアーティストに本社を案内し、ロックの殿堂の創立に尽力したアトランティックの共同設立者アーメット・アーティガンに寄贈された賞のことなど、同社の歴史に触れてもらうようにしているという。またアーティストが辺鄙なところに住んでいる場合には、A&R側から出向くことも珍しくない。

人と直に接する機会が失われている現在、アトランティックは契約を検討しているアーティストたちとビデオ面談を行っている。しかし結果として、契約成立のハードルは高くなってしまっているという。

特に苦戦を強いられているのがロックバンドだ。「売りにしている面はアーティストによって異なります」。ルイスはそう話す。「中にはライブを最大の魅力としているアーティストもいます。そこに重点を置いていない人もいますが、ロック系アクトとの契約が減少傾向にあるのは、おそらくライブを売りにしているケースが多いからでしょう。今後しばらく、そういうアーティストはレコード契約の獲得に苦労するでしょう」

またルイスはレコード契約の締結プロセスと契約内容について、現在の状況を反映したものに「自然と変化していく」はずだとしている。「私自身が1作品限りの契約を交わしたわけではありませんが、もしこの状況が長引くのであれば、様々な条件や市場の動きに柔軟に対処する必要が出てきます」。彼はそう話す。「自分の要望を提示するだけの実績と数字を既に残しているアーティストの中には、長期的な契約を望まない人もいるかもしれません。短期的なディールが双方にとって有益だというケースは出てくるでしょう」

エピック EVPのA&Rであり、ルイスの同僚でもあるジョーイ・アービジーはこう付け加える。「私は基本的には『勘』に頼るタイプですが、現在の状況下では数字の精査が不可欠です。潜在的なリスクをも見極めようとするようなアプローチは、普段の私のやり方ではありません」

Translated by Masaaki Yoshida

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