17世紀に実在したオランダ人格闘家、ニコラス・ペターの謎

『Nicolaes Petter Wrestler & Wine Merchant World’s First Self-Defence Author』より

新連載「山﨑智之の軽気球夢譚(Tomoyuki Yamazaki presents The Balloon Hoax)」がスタート。記念すべき1回目は17世紀のオランダ人格闘家、ニコラス・ペターについて。

格闘王国オランダは、数々の伝説的な格闘家を育んできた。アントン・ヘーシンク、ジョン・ブルミン、ウィレム・ルスカ、ジェラルド・ゴルドー、ロブ・カーマン、ピーター・アーツ、バス・ルッテン、ラモン・デッカー…そんな格闘技界のルーツといえるのが、ニコラス・ペター(1624/生年月日不明〜1672/11/24)である。

17世紀のオランダはスペインとの80年戦争が終結、貿易や金融の発展、レンブラントやフェルメールに代表される芸術の隆盛など、まさに黄金時代を迎えていた。だが、それと同時に都市部の治安も悪化。ヨッパライの暴力事件や追い剥ぎも多く、護身術がひとつのブームとなった。

古代ギリシャ/ローマ時代から伝わるグレコローマン・レスリングのジムもあったものの、流行となったのはより路上での戦いを念頭に置いたプヘーレス(pugeles=拳闘。現代のボクシングとは異なりノーグローブ、掴みもあり)やパンクラティウス(pankratius=パンクラチオン。古代ギリシャの打撃と組技を合わせた競技)、リュクトリウス(luctirius=グラップリング)のジムだった。そんな中で21世紀でも知られているのがニコラス・ペターの護身術スクールだった。

1624年、ドイツのモメンハイムに生まれたペターの出生の詳細については、当時の資料が30年戦争で焼失してしまい、残されていない。彼は十代の頃からアムステルダムでワイン醸造所の徒弟として修行を積み、ワイン商人として成功を収めている。それと同時に、若い頃からリュクトリウスを学んできた彼は護身術スクールを設立。自宅の地下室をジムにして、主に富裕層の生徒に教えていたという。

ペターの格闘テクニックは彼の死後、1674年に『Klare Onderrichtinge Der Voortreffelijke Worstel-Konst』(“素晴らしきレスリング技術の明解修養”の意味)としてまとめられ、アムステルダムで刊行されている。彼の生業を踏まえてワイン樽を担いだり抱えたりするウェイトトレーニングも紹介されているが、目を開かされるのはロメイン・デ・フーフェが手がけた銅版画だ。これは生前のペターが監修したもので、71枚の銅版画で彼のテクニックが図解されている。

・現代でも有効な格闘テクニックの数々(画像14点)

競技ではなくストリートファイトを前提とした内容で、肘関節への極め技や襟を使った絞め技が多く、ナイフを持った相手との対戦もある。基本的にはセルフ・ディフェンスを前提としているものの、一方的な顔面パンチや、肘関節を極めながらの足払いなど、えげつないオフェンス技も多い。

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