苦境に立たされたマーチャンダイザーの挑戦「それでもツアービジネスは不可欠」

2017年のグラストンベリー・フェスティバルで、グッズ売り場に列をなすオーディエンス(Photo by Invision/AP/Shutterstock)

フォール・アウト・ボーイ、パニック!アット・ザ・ディスコ、アラニス・モリセット等のTシャツやポスターなど、各種グッズの製造と販売を請け負うManhead MerchのCEOであるクリス・コーネル氏は、この商売がどんな苦境や障害にも耐えうると長年信じていた。

しかし新型コロナウイルスの影響でコンサート業界が壊滅的なダメージを受けると、彼の会社は収益の70パーセントを失ってしまった。「景気が最悪の時でさえ、人々はコンサートに足を運び、グッズにお金を落としていました」。彼はそう話す。「私はこのビジネスが無敵だと信じていました。しかし現在の状況は、この業種に従事するすべての人を打ちのめしました」

【写真を見る】コロナ直撃、ライブハウスも壊滅的打撃

コンサート業界の繁忙期である今の時期に、Manhead Merchはここ数年で最大級の収益を見込んでいた。しかし、クライアントのアーティストたちが次々にツアーを2021年以降に延期するなかで、Manheadは他の同業者たちと同様に、極めて苦しい状況に追い込まれている。ツアーでの売り上げが最大の収入源となっている大半のマーチャンダイザーにとって、相次ぐコンサートの中止は死活問題となっている。また販売店の大半は営業を自粛しているため、現在ではオンラインショップが頼みの綱となっている。「ツアーの中止や延期によって、グッズの売り上げは激減しています」。コーネル氏はそう話す。「これといったプロモーションをすることなく、通販の売り上げが30パーセント増加していることが支えになっています。また官民連携資金を受け取ることができたので、リストラをすることなく1年間持ちこたえられればと思っています。しかし、いくら通販の売り上げが順調とはいえ、今年の収益目標の達成には程遠いことには変わりありません。ツアーの延期によるダメージは極めて深刻です」

Manheadの経営状態は破綻寸前とまではいかないものの(「不測の事態のための資金を用意していて正解でした」とコーネル氏は話す)、コンサート業界が通常の状態に戻る時期が不透明となっていることは、あらゆるマーチャンダイザーにとって大きなストレスとなっている。過去数十年間で、ツアーはミュージシャンにとって不可欠な収入源となったが、それに伴うグッズ販売ビジネスも大きく拡大した。正規にライセンスされたグッズの売り上げをトラッキングする団体Licensing Internationalの発表によると、2018年の音楽グッズ業界の市場規模は35億ドルとされており、その前年から約5億ドル増加している。しかしコンサート業界と同様に、その数字が今年は減少すると見られている。

コーネル氏によるとサプライチェーンにも影響が出ており、印刷工場が閉鎖したり、倉庫からの商品発送ができなくなっているケースもあるという。しかしパンデミックが長引いていることで、支障はむしろある程度抑えられている。Manheadが提携しているアーティストの大半がツアーに出ている最中に現在の危機が訪れていたならば、同社は大量の在庫を抱えるか、バンド側に同社への支払い義務が発生していただろう。コーネル氏はアーティストの大半がまだツアーを開始しておらず、同社がそういった問題を回避できたことは不幸中の幸いだったとしている。

Translated by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE