なぜ苦しんでいる人をさらに批判するのか?「公正世界仮説」とは

彼は、普段温厚な学生が、社会の問題によって貧困に苦しんでいる人を蔑んだり、温和な医療従事者が精神障害者を蔑んだりするのを見て疑問を抱きます。これは従来の心理学では説明ができない現象でした。そこで彼は実験を行います。実験には72名の女性が参加し、共同被験者が電気ショックを受ける様子を見るように指示されます。実はその電気ショックを受ける被験者はサクラで、苦しむ演技をしているだけなのですが、その苦しむ様子を見た参加者達は動揺しました。しかし、それを見続けているうちに、電気ショックを受けている人に対して差別的な態度を取るようになったのです。そして、その電気ショックが大きくなればなるほど差別的態度は大きくなりました。また、その電気ショックを受けている被験者が「後でその苦痛に見合う報酬をもらえる」と聞かされると、差別的態度はなくなりました。

これについてラーナーは、実験の参加者が差別的態度になった理由は「そうした酷い目に遭うのは、その被験者が何らかの悪いことをしたからに違いない」と解釈したためだろうと考えます。そして人間には「良いことは良い人に起こり、悪いことは悪い人に起こる」、言い換えるならば「人はその人の行動や言動に見合った結果がもたらされる」という信念がある、と考えました。このような心理的バイアスが「公正世界仮説」です。

人は、世界に安定や秩序を求めます。そして、世の中は公正で、善良な人には良いことが起きると思いたいし、理由もなく傷つけられたり、不当な扱いを受けたりしたくはありません。そのため、理不尽な事態を実際に目の当たりにすると、安定や秩序を脅かされるために動揺します。そうした被害を受けた人が善良な人であればさらに理不尽さを感じ、世の中の公正さに対して不安を抱くことになってしまいます。しかし、その被害者に何らかの落ち度や悪いところがあったと考えると、それはその人の自業自得ということになり、「仕方がないことだ」と思えるようになります。そうして「世の中の公正さ」は維持されることになります。

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