ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

「気高い志を持っていれば、ささいな挑戦でも十分に価値がある」

ワインは時間を見つけてはレコーディングを続けている。しかし今の彼の音楽は、ターゲットを絞らざるを得ない。明るくお気楽な作品は日の目を見そうにない。「今はより画期的な音楽を期待されているんだ」と彼は言う。

2021年はワインやピープル・パワーのみならずウガンダにとっても、激動の1年になりそうだ。数週間以内に彼は、支持者と集会を開こうとしたとして拘束されるだろう。警察は、群衆を解散させるために催涙ガスや銃を使うかもしれない。警察によると、ワインは屋外での集会の開催は禁止されているが、室内では許されているという。彼とピープル・パワーのリーダーたちは、狭い監房へ一日中閉じ込められることだろう。ウガンダ政府は引き続き、ワインと有権者との接触を阻止し続けるのだ。

ワインは、自分を取り巻く状況が悪化していることを承知している。彼には反逆罪や暴力を煽動した罪など複数の罪に問われる可能性がある。もしも有罪宣告を受けて勾留されて大統領選への出馬資格を失ったらどうするか、との問いに対して彼は一瞬険しい表情を見せたが、「橋のたもとまで来たら渡らねばならないだろう。他にどうすればいい?」と満面の笑みを浮かべた。

ワインを終身刑にするか、殺害するか、或いは支援者を厳しく弾圧すれば、国際的な批判の声が上がるだろう。かといってムセベニ政権によるワインに対する行為を止められる訳ではない。ムセベニを踏みとどまらせているのは、ワインが目論んでいる革命的な運動が本当に起きるのではないかという懸念だ。何がきっかけになるかは、ワインにもムセベニにもわからない。あるのか無いのかわからない境界線に向かって手探りで進んでいる状態だ。

セルンクマは、どうすればワインにとって有利な状況にできるかを模索している。「ボビは今とても難しい立場にある。悲劇のヒーローのようだ」と彼は言う。ワインが成功するには、目標を変更するのもひとつの手かもしれない。「ボビが打てる最善の策は、人々の幸福と人々による政治的な選択とを上手に関連付けることだ」とカリナキは言う。「2021年か或いはその先の2026年の選挙でムセベニを引きずり下ろせなくても、ワインは若い世代に将来へ向けての政治的な意識を植え付けることができるだろう。そしてその世代が30歳代や40歳代になった時、ムセベニを追い出すだけでなく、ムセベニズムを一掃するのに必要な厳しい決断をしてくれるだろう」

ワインの求める目標はさらに先にある。しかし彼のミッションが失敗に終わったとしても、或いは刑務所行きになったり死亡してムセベニが権力の座に居座り続けたとしても、彼は自分の決断を後悔しない。「何ごとにも価値はある。既に、目覚めた人々が得たものには価値がある」とワインは言う。彼は、ビクトリア湖に映る夕日に照らされたビーチを眺めながら静かに語った。「気高い志を持っていれば、ささいな挑戦でも十分に価値がある」






Translated by Smokva Tokyo

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