ウガンダ発、独裁政権と対峙する音楽コミュニティの力

「ピープル・パワー」をスローガンに掲げて活動するボビ・ワイン(Photo by Isaac Kasamani/AFP/Getty Images)

東アフリカのウガンダで、人気ミュージシャンから国会議員に転身したボビ・ワイン。アフリカで最も注目される政治家の一人に迫った。

ボビ・ワインが26歳の時、24インチのホイールリムのタイヤを履いたキャデラック・エスカレードを新車で購入した。当時の彼は既にウガンダのスーパースターで、彼曰く、購入したエスパーダは東アフリカ全体で初めて販売されたものだという。ワインの音楽は、「キダンダリ」と呼ばれる地元独自のアフロビートとジャマイカン・ダンスホールとを組み合わせた明るいスタイルだが、当初は純粋なヒップホップのミュージシャンだった。地元メディアは、複数の女性と浮き名を流し他のスターと揉める彼を取り上げて騒ぎ立てた。



ワインは、ある晩ウガンダの首都カンパラにあるクラブへエスカレードで乗りつけた時のことを語った。クラブに着くとひとりの男がワインに絡み出した。男は、常に世界で最も貧困な国々のひとつにランクされているウガンダで自分の富を誇示しているワインが気に入らなかったのだ。車に近寄った男がワインの顔を平手打ちしたため、才能あるボクサーでもあったワインはとっさにSUVから飛び出した。すると男は銃を取り出してワインの頭に突きつけ、彼を繰り返し激しく殴り付けたという。

男は、ウガンダの軍諜報部のトップとも一緒に働いた経験を持つ兵士だったという。言い換えれば男のコネは強力で、誰に何をしても責任を問われないということだ。当時のワインの音楽は、パーティーソング、ラブバラード、ブラガドシオが中心だった。時折、貧困や公衆衛生、エイズ流行などウガンダに蔓延る問題についての曲を作ることもあったが、問題の元凶である体制に対してはほとんど無関心を装っていた。結局のところ、彼はそうやってうまく生きてきたのだ。

殴られたワインも初めは怒りを露わにした。しかし知り合いの軍幹部やビジネスマンや政治家らが同じように誰かを殴りつけていた時に、彼は傍で黙って見ていたことを思い出した。そんな自分の態度を振り返ってみると、彼は殴られても当然だったのかもしれない。

殴打事件をきっかけにワイン(現在38歳)は政治への道を目指し、12年前に自分を平手打ちさせることに繋がった社会の不条理や不公正に取り組むこととなった。本名をロバート・キャグラニ・センタムというワインは、2017年にウガンダの国会議員になった。ウガンダでは、75歳になるヨウェリ・ムセベニ大統領の独裁状態が続いている。2019年にワインは、2021年初頭に行われる大統領選への立候補を表明した。

・1986年からウガンダの大統領を続ける「年老いた独裁者」(写真)

1986年から続くムセベニ政権下では汚職が蔓延し、政敵を容赦なく押さえつけてきた。最後の大統領選は2016年に行われたが、ムセベニの最大のライバルだった候補者は選挙当日に逮捕された。

Translated by Smokva Tokyo

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