コロナ対策進言のため専門家はFOXニュースを利用、トランプ大統領や政権関係者も日々チェック

2020年3月12日、ワシントンD.C.のホワイトハウス西棟前でTVインタビューに臨む、国立衛生研究所・国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長 (Photo by MICHAEL REYNOLDS/EPA-EFE/Shutterstock)

FOXニュースを欠かさず見ている視聴者にとって、アメリカにおける感染症研究の権威の1人、W・イアン・リプキン博士の疲れた顔としゃがれ声はすっかりお馴染みになった。

博士は3月13日放送の『America’s Newsroom』で、新型コロナウイルス感染流行中に一人一人が出来る最適な衛生管理法を語った。3月17日の早朝4時15分には『Fox & Friends First』に出演し、トランプ大統領の新たな安全ガイドラインを検証した。FOXの特別番組『America vs. Virus』にも出演した。3月末に検査で陽性反応が出たことを公表したのも、新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼ぶルー・ドブズ氏が司会を務めるFOXビジネスの番組に出演していたときだった。

コロンビア大学公衆衛生大学院の免疫感染症センターの所長でもある彼は、AIDSや西ナイル熱からSARSやMERSまで、あらゆる感染症の同定及び拡大阻止に努めてきた。2011年の映画『コンテイジョン』では科学監修を務め、2016年には数十年にわたる中国の科学者や公衆衛生管理者との提携実績を認められ、習近平主席が主宰する式典で中国政府から賞を授与された。

去る12月中旬、リプキン博士は中国の知り合いから、武漢市で肺炎に似た疾患が蔓延していることを聞いたそうだ。博士は、中国の公衆衛生制度の強化に尽力する中で知り合った中国疾病預防控制中心の高福主任にメールを送った。数週間音沙汰がなかったが、その後ようやく返事を受け取ると、事態がどれほどひどくなるかを即座に悟った。

1月、彼は中国へ飛び、現地で1週間ほど中国政府職員や公衆衛生の専門家、科学者、学者、報道陣と面会した。「明らかに武漢は悲劇的状態でした」とリプキン博士。アメリカに戻ったリプキン博士は、どんな手を尽くしてでも警鐘を鳴らさねばならないと考えた。それには大統領お気に入りのTV局を通して大統領と現政権の関心を惹くことも含まれていた。

「私のような人間はレイチェル・マドーの番組を見ます――あなたもそうかもしれません――ですが、話を聞いてもらわなければならない相手は見ていないんです」と、リプキン博士はローリングストーン誌に語った。「ペンシルベニア大通りに住んでいるあの男はマドーの番組など見ません。彼に何か言わなければいけないときは、早朝4時の『Fox & Friends』に出演してルー・ドブズの番組に出るんです」

まともな時代、そしてまともな政権下であれば、政府は内外から広く専門家を募り、組織的に意思決定や政策立案を進めていただろう。2009年のH1N1新型インフルエンザ流行時にオバマ前大統領の下で国土安全保障顧問を務めたジョン・ブレナン氏の話によれば、オバマ前大統領は最新データとその筋の専門家の意見を頼りに政府の対応を決定していたという。国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長や、当時疾病予防管理センター(CDC)の所長を務めていたトム・フリーデン博士は、常にホワイトハウスのH1N1対策会議に出席していた、とブレナン氏は振り返る。ブッシュ政権時のパンデミック専門家も、引き続きH1N1対策に当たるよう要請された。学術界からもインフルエンザの専門家が動員された。「(オバマ前大統領は)自分の専門外の医学的問題に対し、科学やその専門家に政策協議の先導を頼んでいました」とブレナン氏は言う。

Translated by Akiko Kato

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