コロナ対策進言のため専門家はFOXニュースを利用、トランプ大統領や政権関係者も日々チェック

どんな思想の番組にも出なければならない理由

現在、専門家は全く別の課題に直面している。事実や科学を蔑ろにし、自分の機嫌を取ってくれる番組司会者や世論に逆らう天邪鬼、古い友人やビジネスパートナー、自分の思う通りに動く人間から得た情報を信じる大統領に、どうやって話を聞いてもらうかだ。公衆衛生や医学に携わる人々が新型ウイルスの研究や、公衆衛生危機下での最善の伝達手段を考える上で、未だかつてないほどにTVに出演して誤った情報を正すことが求められている。「こうした分野に何十年も携わっている我々にとって、不適切な対応を目にするのは特に我慢できませんね」と言うのはウェイン州立大学のマシュー・シーガー教授。クライシス・コミュニケーションの専門家で、450ページに及ぶCDCのパンデミック情報伝達マニュアルの制作にも携わった。「誰かが間違いを犯しているのを見ると、手を差し伸べたくなります」

イアン・リプキン博士のような専門家にとって、それはたとえ偏った政党支持者や経歴の疑わしい医師と共演することになるとしても、出る機会があれば必ずFOXニュースに出演することを意味する。他にも、信用できる正しい情報を出来る限り大衆に広めようと、真面目な媒体からの出演依頼は全て引き受け、必死になっている専門家もいる。媒体によっては、実証されていないコロナウイルス治療を推進するルディ・ジュリアーニ氏や、中国と北朝鮮が「共謀して」新型コロナウイルスを開発したと憶測するジェリー・ファルエル・Jr氏らとの共演を余儀なくされることもある、真っ当な専門家が政治家に情報を届けるには不本意な方法だ。

ジョンズ・ホプキンス大学保健安全センターで感染症と緊急医療を専門とするアメッシュ・アダルジャ博士は、出来るだけ多くの取材の依頼(弊誌も含む)を受けることで、幅広い層に声を届けようとしている。今日の細分化されたメディア生態系では、FOX、MSNBC、CNN、その他多くの媒体に出演することで、自分の信頼性を上げられるとアダルジャ博士は信じている。「各局が独自の専門家を抱えるようになると視聴者にどんな影響が及ぶか、日に日に心配になっています。こちらの局に出演して、あちらの局に出演していない、という理由で見向きされなくなることもあり得ます」

アダルジャ博士本人に限って言えば、FOXのプロデューサーやキャスターから発言を制限されたり反論されたりしたことは一度もなく、局とも良好な関係を保てているという。ただしFOXに出演する際は、トランプ大統領や政府高官が見ているかもしれないという責任感やプレッシャーを感じるとも言った。「FOXに出演するときはどうしても考えてしまいますね。自分の発言がいつもにも増して重要な気がします」

Translated by Akiko Kato

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