辰巳JUNKが解説、今日のポップカルチャーを知るための25の新常識

21.
Uncertainty
不確実性

『ゲーム・オブ・スローンズ』ファイナルシーズンでサンサ・スタークを演じるソフィー・ターナーとアリア・スタークを演じるメイジー・ウィリアムズ。“『ゲーム・オブ・スローンズ』製作総指揮者がスターク姉妹やドラマの結末について語る”より。(Photo by Helen Sloan/HBO)

「不確実性」は、社会、政治、思想、情報の変化とカオスが際立った2010年代に頻用されたワードだ。人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のサンサというキャラクターは「不確実性」のなかで生きる若者の立場をよく表している。彼女は王子様との結婚を夢見る「伝統的女らしさ」に適応する少女だったが、激変する政局にのまれたことにより、冷酷な人物に成長せざるを得なくなる。親世代まではなんとか機能していた勤勉の美徳や伝統的な社会規範は効力を弱め、子どもたちは保証なき荒波に放り込まれてしまったのだ。批判も渦巻いた同作の最終回にはこんな評もある。「2010年代を象徴する作品だからこそ、酷い終焉でなくてはならない」そうして迎えた2020年、世界はパンデミックという強大な「不確実性」に襲われた。



22.
Snippet
断片

“世界最大の音楽企業ユニバーサル、音楽ストリーミングの成長が鈍化 救世主はTikTokか?”より(Photo by Avishek Das/SOPA Images/LightRocket/Getty Images)

ミュージシャンが未発表新曲の一部をSNSでお披露目するケースが珍しくなくなった今、「断片」を意味する「スニペット」という言葉は海外音楽ニュースの常連となった。15秒程度のショートビデオをシェアするプラットフォームTikTokがヒット曲を輩出する場になると、その重要性はさらに増した。2020年には、TikTokでバイラルした「断片」パートの歌詞を副題としてねじ込む改題パターンの増加が報告されている。「楽曲そのもの」より「断片」が注目される、それが今のところのSNSシェア文化なのかもしれない。この時流にスーパースターのドレイクはうまく乗った。新曲「Toosie Slide」の「断片」をTikTokにて先行リリースし、タイトルの「Slide」がラップされる箇所を見事バイラルにしてみせた。




23.
Video Game
ビデオゲーム

Photo by Metin Aktas/Anadolu Agency/Getty Images

ビデオゲームは娯楽の脇役、といった考えを持つのなら、今すぐ捨てたほうがいい。2010年代、デジタルシフトに成功したゲーミング産業は拡大をつづけ、デジタル音楽や劇場映画、テレビ産業の収益規模を超えるエンターテインメント界の頂点に君臨してみせた。2019年、スクリーンタイム獲得を重視するNetflix社CEOは「我々の競争相手は『フォートナイト』だ。そして敗けている」と宣言した。2億ものユーザーを誇る同ゲームは、若者の社交場たるソーシャルメディア的プラットフォームになりつつあり、企業とのコラボレーションも数多い。ディズニーやマーベル、DC、Netflix『ストレンジャー・シングス』にNFLなど、ほかでは有り得ないほどビッグIPが混在する世界を覗きさえすれば、「娯楽の王位」は一目瞭然だろう。


24.
Metaverse
メタバース

Via epicgames.com

「メタバース」は「インターネットの次の仮想空間」とされる概念だ。現時点では、膨大な人々がアバターとして常時ログイン可能で、ユーザーがクリエイティブ権を持ち、様々なコンテンツが楽しめて独自の経済システムが築かれたような空間とされる。語源となるSF小説『スノウ・クラッシュ』ほか、映画『レディ・プレイヤー1』がイメージ例とされる。GoogleやFacebookを尻目に、最も近い存在と言われるプラットフォームはEpicGames社による『フォートナイト』。「メタバース」構築の野望を掲げる同社CEOは、2019年末、『フォートナイト』はゲームかを問われ「12カ月後に同じ質問をしてください」と返した。それから半年もせずに開催されたのが、「ゲーム以上のキャパシティ」を世界に知らしめたトラヴィス・スコットバーチャルコンサートである。


トラヴィス・スコットが『フォートナイト』とコラボし、ゲーム内で架空のライブイベント『Astronomical』を開催(今年4月24日~26日開催)。初日には世界中から1200万人以上のファンが参加した。


25.
Pandemic
パンデミック

「One World: Together At Home」に出演したレディー・ガガ。“グローバル・シチズンCEOが語る、ライブイベント制作秘話「ガガ母のサポートがあってこそ」”より。(Photo by GettyImages)

2020年、世界中を襲った新型コロナウイルス危機は、映画館や劇場、コンサート会場に製作現場など、エンターテインメント産業の多くを打ち止めてしまった。多くの人が自己隔離するなか、憩いの場となったのは、オンラインミーティングやゲーム『どうぶつの森』といったバーチャルコミュニケーション・ツールである。このことが「メタバース」への関心や投資を増加させるとも予想されている。しかし、未来がどうなるかは誰にもわからない。「生き残るしかない」のかもしれない。パンデミック危機のなか、アーヴィング・ペンが撮影した上を向く一輪の薔薇をカバーとしたVogue誌の編集長アナ・ウィンターはこうつづった。「未来を楽観視するには勇気がいる。しかし、それこそ、未だかつてなく我々が必要とする勇敢」






『アメリカン・セレブリティーズ』
辰巳JUNK
仕様: 四六判並製/ 296ページ
定価: 1700円+税
発売日:2020年4月30日
目次・詳細:
http://www.small-light.com/books/book075.html

ハリウッドスター・ミュージシャン・政治家・インフルエンサー
摩訶不思議なセレブリティ・ワールド探究記

アメリカのセレブリティは、世界の政治や経済を動かすほどの巨大な影響力を持っている。その背景には、カルチャー、政治、SNSなどが複雑に絡み合った「アメリカという社会の仕組み(と、その歪み)」がある。気鋭のセレブリティ・ウォッチャー/ライター辰巳JUNKが、世界を席巻する20組のセレブリティを考察し、その仕組みを解き明かす!

【登場セレブリティ】
レディー・ガガ/ドナルド・トランプ/カニエ・ウェスト/ビリー・アイリッシュ/ブラッド・ピット/キム・カーダシアン/マイケル・ジャクソン /テイラー・スウィフト/BTS/ビヨンセ/近藤麻理恵/アリアナ・グランデなど

試し読み
http://outception.hateblo.jp/entry/2020/04/26/203545

辰巳JUNK(たつみ・ジャンク)
平成生まれのポップカルチャー・ウォッチャー。おもにアメリカ周辺のセレブリティ、音楽、映画、ドラマに関する論考をCINRA.NET、The Sign Magazine、ELLE ONLINE、Real Sound、文春オンラインなどに寄稿。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE