辰巳JUNKが解説、今日のポップカルチャーを知るための25の新常識

左からビヨンセ、テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュ(Photo by Larry Busacca/Getty Images for Coachella, Carrie Davenport/TAS/Getty Images for TAS, Mat Hayward/Getty Images)

2010年代から今日にかけて、アメリカを中心とした世界のポップカルチャーではどのような動きが起こっていたのか? セレブリティからアメリカ社会を読み解く初の著書『アメリカン・セレブリティーズ』を刊行したライター・辰巳JUNKが、ファンダム、#MeToo、分断、パンデミックなど、ここ10年のトピックを振り返るためのキーワードを一挙総括。

※この記事は2019年12月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.09』に掲載されたコラムを改題・再編集したものです(番号21〜25は新規書き下ろし)。

Illustration (1〜20) = Yoshitaka Kawaida


1.
Identity Politics
アイデンティティ・ポリティクス


2010年代アメリカはいかにして始まったか。黒人初の大統領バラク・オバマ政権、そして神の名のもとに多様なセクシャル・マイノリティや肌の色を肯定したレディー・ガガ「Born This Way」の産声だ。SNSによって既存の権威のパワーが揺らぎ、個々人のインフルエンスが上昇したことにより、抑圧されるアイデンティティの人々が被る不正義に反対する「アイデンティティ・ポリティクス」が活性を迎えた。2013年には、さまざまな人種や体型、セクシャリティの女性を描くNetflixドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』が米ポップカルチャーに「多様性」の議論を根づかせた。そして同年、個性を肯定せんとする熱情のアンセムが世界を駆け巡る。映画『アナと雪の女王』主題歌「Let It Go」。そう、“ありのままに”。



2.
Attention Economy
アテンション・エコノミー


スマートフォンは、エンターテインメントの送り手と受け手の関係すら一変させてしまった。SNSによって一般の人々は影響力を手に入れたし、コンテンツの選択肢も膨大になったからだ。時代のキーワードとなったのは「アテンション・エコノミー」。現代人がマルチ・タスクに娯楽を楽しもうと、与えられた時間は1日24時間と限られたまま。ヒットを狙う供給側は、話題にされて目立つことで消費者の時間を獲得したい……「アテンション」価値がより重要視されるようになった。2013年、予告なしのアルバム・リリースで莫大な話題を創出したビヨンセは、翌年「Feeling Myself」にて人々の「注目」を独占したことを自信満々に宣言した。「あの時あなたがなにをしてたか知ってるわ 私が世界を止めたんだもの」


3.
Fandom
ファンダム


SNSは、距離や国境を越えて人々を集わせるプラットフォームだ。セレブリティたちにしても、みずからのファンと密に交流するプラットフォームを手中におさめた。こうして重要視されることとなった「ファンダム」カルチャーは、素晴らしいことも暗いことも生んでいく。ライトサイドの象徴には「北米では絶対に売れない」とされた東アジア系にして世界的トップスターとなったBTSが立っている。彼らはつねにファンのことを考え、ファンもまた彼らを支え続けている。ダークサイドには、言葉そのまま『スター・ウォーズ』シリーズ。新作映画に不満を抱えるファンによる監督やキャストへの攻撃は、一種の社会問題として大きなニュースになったし、ファンダム自体をも分裂させてしまった。


BTS初のドキュメンタリー映画『Burn the Stage : the Movie』予告映像


4.
Viral
バイラル主義


後ろ盾のない一般人でも有名になれる……こうした夢は、インターネットによって実現された。YouTubeやInstagramで人気インフルエンサーとなり、数千万円稼ぐ未成年だってそうそう奇異な存在ではなくなってきている。ただし、膨大なユーザーのいるネットで手っ取り早く「注目」を稼ぐとしたら、過激さが強い。SoundCloudにより短期間でトップシーンへと成り上がったTekashi 6ix9ineは、危険なギャングとの交友すら「バイラル」ネタに使い話題を作っていった。メジャーデビュー翌年には全米トップ3シングルを輩出したのだから、その勢いはまさしく本物だった。しかし、頂点に立とうとした時、ギャングとの関係の疑いにより逮捕され、終身刑の可能性に直面。成功の象徴から、バイラル主義の反面教師へと一転してしまった。


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