演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察

続いて、ジャックのコード弾きが加わります。譜割はコリーと同じです。そして、ジャックの「ベイス!」という掛け声とともにバンドが演奏に加わります。オーダー表は以下の通り。ベース、ジョー・ダート。ドラム、セオ・カッツマン。クラビネットおよびオルガン、ウッディ・ゴス、エレピ、ジョーイ・ドーシック、パーカッション、リッチー・ロドリゲス。

この箇所は注目ポイントその2となります。バンドの演奏が入るタイミングが4拍目のウラということを意識して聴いてみてください。

イントロから続くコリーとジャックのフレーズは1拍目の裏から始まっています。さらに、コリーの遊びのフレーズを除くと3拍目4拍目は空白が置かれています。一拍目裏でスタート、3・4拍目が空白というフレーズを積み重ねたうえで、空白が置かれていた4拍目裏でバンドがインするので、聴いているほうはハッとするわけです。「ベイス!」という掛け声と、ベース及びドラムが食って入るまでの無音の間が実にスリリング。怖い話でいうところの「おまえだあ‼︎」というフックみたいなものです。ここはアドレナリンがドバドバ出ます。

テンポの速いタイトな16分音符で構成されたグルーヴはセオの十八番です。そして、ジョーのベース! キックとベースが張り付いているかのような一糸乱れぬコンビネーションはまさに磁石といえましょう。

メインのパートが続き、JBでいうところのブリッジに突入します。16分音符の洪水はここで小休止となり、ギターと鍵盤がジャーンと白玉でコードを鳴らします。ジョーはミネアポリスというより1960年代のモータウン的ともいえるオールドファッションなフレーズを弾きます。

バンドのリーダー、ジャックはアレンジを組み立てる際にメンバーの自発性を大事にするそうです。過去の音楽マニアがアレンジを考える場合、「この曲ではマッスル・ショールズのサウンドを再現したいの! なんでデニチェンみたいなオカズを入れちゃうの! おかしいでしょ!」という調子で時代考証(?)を大切にすることがあるかと思います。ヴルフペックの面々は音楽マニアと言えますが、マニア性に拘泥せずに遊びを楽しむタイプです。フォーマルというよりカジュアル。自分には偏執狂なところがあるので、ヴルフペックの音楽に触れるたびに一層の開放感を感じるのであります。もっと遊んでいいんだ! というように。

この曲には「ライブ映え」する見せ場がいくつもあります。ブレイクでジョーがフィルを入れる箇所(ウッディが笑顔になる箇所)、コリーがモニターを足を載せてソロでカッティングを披露したのち、ジャック、ジョーと続き、3人がビッグ・スマイルでステップを踏む箇所、ジャックが「リトル・ストリングス・セクション」と呼ぶギターとベースの3人だけでトリッキーな絡みをする箇所などです。さらに、こうした見せ場の合間にも、ウッディとジョーイが小粋なオブリガートを入れています。気の利いたフレーズとはまさにこのこと。もちろんリッチー・ロドリゲスも打楽器の連打で盛りたてています。

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