THE ORAL CIGARETTESが語るバンド哲学「ロックスターの源流を学び、2020年に昇華させた」

山中が偏愛する90’sヒップホップ

―僕のイメージにはなかったんですけど、山中さんは90年代ヒップホップにどっぷりらしいですね。

山中 どっぷりですね。なので僕、最近のラッパーが正直あまりわかってなくて。全部一緒に聞こえるというか。

―ああ、その感覚はわかりますよ! 僕も同じです。

山中 多分、90年代のヒップホップの現場ではあまり起こらなかったモッシュみたいなものが、トラップをきっかけにどんどん増えてきたことでライブがもっと面白くなっていって、そういう部分にみんな熱狂してるんだろうなとはわかりつつ、それでも僕は90年代のヒップホップのほうが全然カッコいいといまだに思ってて。でも、メンタル面でカッコいいラッパーは今もいっぱいいると思うし、チャンス(・ザ・ラッパー)とかカニエ(・ウェスト)とかタイラー(ザ・クリエイター)なんて「どんだけ先を読んでんねやろ?」って思わされるから、そのあたりはちゃんと聴こうと思ってますけど、それ以外はデビューしたてのUKのラッパーばかり聴いてます。

―『SUCK MY WORLD』も、女性コーラスの雰囲気に90年代前後のR&Bを感じるんですよね。ほんのり懐かしい。

山中 それは意図してなかったけどすごくうれしいです。

―今の話を聞いてもまだ、なぜこんな音になったのかまだ完全には見えないですね。

あきら 今回は拓也がすごくわかりやすく1曲1曲のテーマを提示してくれたんですよ。「この曲はこういう雰囲気だから」ってほかのアーティストの音源を共有してもらったことで取り組みやすくなったのはありますね。

―山中さんはよくこんなアイデアが浮かびましたね。

山中 今からする話を気持ち悪いって言われたらそれで終わりなんですけど……去年、変なスピリチュアル体験をして、その話をメンバーと共有するところからこのアルバムは始まってるんですよ。

―なんですか、それは。

山中 僕、去年の夏フェスシーズンに泊まったホテルで初めて気絶というものをして、そのときに気持ち悪い夢みたいなものをみたんですよ。

―ほう。

山中 その夢のなかでは自分の体は存在してなくて、目の前にいるメンバーに何かを託している。そんな自分をさらに客観的に見ている自分がいるっていうのがメインの世界線として走ってて、その両側にはスロットのレールみたいに別の軸が流れてるんですよ。片方は過去の自分が走馬灯のように回ってて、もう片方にはこれから先に歩むであろう未来の自分が回ってる。それが時々<777>みたいに同じ画で揃うっていう変な夢で。目が覚めてから「何の夢やったんやろ?」って考えてみたらすぐにわかった。「これって、自分の人生のレールはすでに敷かれたものっていうことなのかも。てことは、この先も何がどうなるのか全部決まってるんだな」って。

―なるほど。

山中 これまでの人生、自分の意志で生きてきたつもりだったけどそうじゃなくて、「誰かに生かされてるんだ」ってそのときに思ったんです。人生って永遠に回り続けてて、たとえ死んだとしてもまた同じ人生を繰り返すんじゃないかって。人間から蛇口に生まれ変わるなんてことはないんですよ(笑)。

―うんうん(笑)。

山中 人間から人間に生まれ変わることは決まっていて、だからこそ出会うべく人と出会っていくし、でも毎回少しのズレみたいなものがあって、勇気をもって前に一歩踏み出すことで前世で残せなかった新しい何かを残せるようになる。人生ってそういうちょっとしたアップデートの繰り返しなんじゃないかって。

―面白いですね。

山中 人生にはレールを外れる怖さっていうのがあるけど、そこから敢えて外れることで何か大きなものを生み出すことができるから、そのためには自分の感情と常にちゃんと向き合っていかなあかんねやろうなっていうことを考え続けてたら、過去の偉人の人生にすごく興味が湧いてきて、それを辿っていこうとしたのがさっき話した過去を掘っていった理由のひとつなんです。

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