トランプのコロナ定例会見から考える放送ジャーナリズム「ライブ感より大切なもの」

生放送・速報の基準

ーTVネットワークほどの大規模なメディアが緊急速報の差し込みを決定するのは重大な決断だろうと思います。特派員に取材させて、編集して、夜のニュース番組で放送するのではなく、そうした決断に至った理由は何でしょう?

原則としてTVネットワークの場合、ゴールデンタイムに緊急速報を入れるのは、他の時間帯よりもずっと大きな決断です。全国的な関心事か? 本当に緊急か? 国民が知るべき事柄か?などが基準になります。どこかで大規模なテロ事件が起きたとか、重要人物――マイケル・ジャクソンとか――の突然の訃報などがそうですね。公人や政治家に対する暴力事件も対象になります。

それからワシントンやホワイトハウスのニュース。これは政権に報道官や広報部長がいて、ホワイトハウス記者団との関係もスムーズだった、議会が言うところの「平常時」についてしか言えませんが。

私は2017年の春に退職しているので、トランプ政権下でこのような基準について考えなければならなかった機会はごくわずかです。ですが私の印象では、以前のような記者とホワイトハウスの関係は、もはや存在していないように見えます。新型コロナウイルスの定例会見が行われる以前、大統領のお気に入りの会見場所はヘリコプターの発着所でした。それも、専用ヘリに乗り込むためにホワイトハウスの南庭に出てきたとき、大統領の気が向いた間しか行われないのです。

ー“ヘリコプター会見”ですね。

大統領には最高の形式です。自分は質問を聞き取れませんが、回答は常に聞き届けられますからね。いつ会見を始めていつ終えるか、どの質問に答えてどの質問には答えないか、完璧にコントロールできる。大統領はこの形式を気に入っていて、専用ヘリに向かうときはほぼ毎回会見をしています。

ー特にホワイトハウスが今非現実的で、以前とは全く違う別物になってしまったことを気づかされる事例のひとつですね。

ごく一部のアメリカ国民は、大統領がテレビに出たいと言ったら出演を認められるべきだ、特に今のような危機的状況では、ネットワークは放送枠を大統領に割くべきだ、と信じている人もいるようです。私はそうは思いません。ひと昔前と比べれば、今日の大統領には大衆に呼びかける能力も手段もあります。大統領にはTwitterがありますし、ホワイトハウスには動画チームやメディアチームがいて、配信するプラットフォームもあります。ジョン・F・ケネディ大統領の時代とは違うのです。あの当時、アメリカ合衆国大統領がキューバ危機について国民に語るには、ラジオやテレビの公共の電波を徴用するしかありませんでした。それが唯一の伝達手段だったんです。

今は明らかに状況が大きく違います。たしか2週間前でしたでしょうか、執務室からの演説を中継するよう大統領がネットワーク局に要請した際、全てのネットワークが放送枠を空けました。ちなみに言うと、演説から1時間も経たないうちにホワイトハウスは大統領の発言を訂正する声明を出しました。それも1度や2度ではなく、3度もです。

Translated by Akiko Kato

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