トム・ミッシュの新境地に学ぶ、「共作」の醍醐味と広がる可能性

「共作」の成果とコロナ時代の気分

ー「コラボ」といってもいろんな形があるじゃないですか。ソウルクエリアンスみたいにコレクティブを形成したり、もしくは分業制のチームライティングだったり。そのなかで、トムとユセフ・デイズがバンド形式とかじゃなくて、「二人の共作」を軸に据えたのもよかった気がしますね。ソロともチームとも違う力関係で支え合ったのがうまくハマってる。

柳樂:最近だと、フライング・ロータスとサンダーキャットもそうだよね。ビートメイカーとベーシストという異なる個性が絶妙な化学反応を起こしている。トムとユセフの場合も、そういうキャラクターの違いが上手く作用した感じがするよね。育ちや性格もだいぶ違いそうだし、お互いがやってたような音楽はこれまでほとんど接点がなかったはず。そこもまた刺激的だったんじゃないかな。そういう意味で、『Geography』が青春時代の記録だとしたら、『What Kinda Music』は人間的に成長した姿が刻まれているというか。情感も豊かだし、これまでの作品より深みがある気がする。

成長といえば、今回は制作環境もだいぶ変わったみたい。ドラムの録り方も相当こだわったそうだし、ディアンジェロ『Voodoo』にも携わったラッセル・エレヴァドがミックスを担当していたり、「Festival」と「Nightrider」では70年的な温かいサウンドを意識して、アナログ機材にこだわった録音もしている。他にもスタジオワークでも相当攻めたことをしていて、『Geography』の頃とは音が全然違うよね。トム自身も優秀なミュージシャンやスタッフと一緒に、もっと上のレベルをめざそうという意識があったと思う。



ー「意識の変化」は、『What Kinda Music』のそこかしこに感じられます。

柳樂:トムは最近、ビートを作らなくなったとも言ってるね。「今はビートメイカーというより、アルバムを録音制作するプロデューサーという役割のほうがしっくりくる。まずは楽器の編成を考えて、曲の世界感を生み出すことが大事なんだ」って。だから今回は歌ものに固執せず、よりサウンド面に踏み込みながら、いろんなバリエーションに取り組んでみたかったんだと思う。「自分の次のアルバムで、違うサウンドを取り入れる足がかりになった」と言ってるし、ソロ名義の新作でも今回の経験値が反映されるんじゃないかな。

ー今作のディープな作風は、前作のファンにどう受け入れられるんでしょうね。

柳樂:でも、今聴きたいアルバムという感じもするでしょ。音作りも密室的だし、メランコリックな雰囲気は「コロナ時代」の気分とも合いそう。乱暴な言い方をすれば、『Geography』は2018年の雰囲気にフィットしたから歓迎されたのであって、仮に今リリースされてたら2年前ほどは売れないと思う。サンダーキャットも今聴くんだったら『Drunk』より、最新作『It Is What It Is』の内省的な曲のほうがしっくりくるしさ。どちらも完全に偶然だけど、そう考えるとトムは時代感覚が鋭いというか「持ってる」人なんだろうね。




トム・ミッシュ&ユセフ・デイズ
『What Kinda Music』
2020年4月24日リリース
国内盤ボーナス・トラック4曲収録

配信・購入リンク:
https://caroline.lnk.to/misch_WKM
トム・ミッシュ&ユセフ・デイズ日本公式サイト:
https://carolineinternational.jp/tom-misch-and-yussef-dayes/


FUJI ROCK FESTIVAL ’20
日程:2020年8月21日(金)~8月23日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
時間:9:00 開場/11:00 開演/23:00 終演予定
※トム・ミッシュは8月21日(金)に出演
https://www.fujirockfestival.com

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