米ラスベガス市長、経済再開の根拠は「市民全員が無症状の保菌者だから」

MSNBCのケイティ・トゥール氏(MSNBC/Screenshot)

米ラスベガスのキャロリン・グッドマン市長は、州全域を封鎖したネバダ州の新型コロナウイルス感染症対策を「正気の沙汰ではない」と呼んで話題になったばかりだ。だが、現地時間21日のケーブルTV局のニュース番組とのインタビューを見た後では、市長の正気こそ疑いたくなる。

MSNBCのケイティ・トゥール氏とのインタビューで、無党派の市長はラスベガス市の経済再開を主張するとともに、驚愕の衛生論をぶちまけた。「私は、全員がコロナウイルスの保菌者だと――100%の市民が無症状の保菌者だと想定しています」。グッドマン市長はさらにこう続けた。「私の意見はただひとつ、市民を職場に戻すべきです」

・人命を完全に無視した米ラスベガス市長のインタビュー動画

市は封鎖を解除すると同時に、市民の健康を守らねばならない、と市長は述べ、さらにこう付け加えた。「もっとも重要なのは高齢者へのケアです。一番感染しやすい人々ですし、恐ろしいこと、ひょっとすると死に至ることもありますから。ラスベガスは高齢者を大切にしています。私も高齢者ですしね!」

具体的にどのような保護対策があるか、とトゥール氏が尋ねた。ベガスの街が開放されて経済的に潤うということは、カジノに喫煙者があふれ、大勢の人々がスロットマシンに触れ、よどんだ空気の中で呼吸することになる。どう見てもコロナウイルスにかかりやすくなるのは必須だ。

「どのように市民の安全を維持するおつもりですか? 可能だとお思いですか?」とトゥール氏。

「ええ、もちろんです」とグッドマン市長は答え、さらに何の脈絡もなく、コロナウイルスの極めて高い感染力と比較する理由も説明せずに、市の封鎖に至らなかった過去の感染症をずらずら並べた。

「我々は西ナイル熱、SARS、鳥インフルエンザ、大腸菌、豚インフルエンザ、ジカ熱を乗り越えてきました」と市長。

トゥール氏が口を挟み、「これらの感染症は、感染力も感染規模も、今我々が目にしているこの病気ほどではありませんよ」

これに対し、グッドマン市長は驚いたようすでこう答えた。「まあ、事実は後からわかるでしょうね。残念ですが、結果で判断するしかありません」

「ですが、これがまさに事実なんです。死者の数が証明しています」とトゥール氏は応戦した。

トゥール氏が反撃を続ける中、グッドマン市長はネバダ州の感染者数を軽くあしらい、300万人以上の市民に対して「151人の方々が残念ながら命を落とされましたが、ほとんどは持病をお持ちの方です」と言った。

その後グッドマン市長は、ソーシャル・ディスタンシングのおかげで州の感染者数はこの程度に抑えられているのではないか、というトゥール氏の指摘に食ってかかった。にわか保健専門家の市長は、アンソニー・ファウチ博士を引き合いに出した。博士は市長の意見とは正反対の提言をしてきたが、「博士のご意見には従います」と市長は言った。

だがグッドマン市長は、コロナウイルスが来年まで猛威をふるう可能性があるとファウチ博士が主張している、と述べ、これを理由に経済再開を擁護した。「ウイルスとの戦いで手一杯だからといって、人々をずっと職場から遠ざけて、市民の生活や、次の世代の子供たちの生活までだめにしろというのですか?」とグッドマン市長。

ここでトゥール氏は一歩退き、そのすきにグッドマン市長は今後ラスベガスが取るべき対策について(そもそも、市長にはそんな権限はないのだが)非情かつバカげた解釈を延々と語った。

「全員が保菌者だと仮定してお話ししているんです。前に進みましょう、街を開放して、誰でも自由に、ただし責任をもって、慎重に再開していきましょう」とグッドマン市長。

市長はその後、高齢者と児童の保護について改めて語ったが、具体的な施策については触れていない。だが、それには理由がある。彼女の理屈がより陰険な方向に向かったのだ。

「全員が保菌者だと仮定しましょう。全員が同じ土俵からスタートすることになりますね。ああしましょう、こうしましょう、と指示を出して、いざ企業活動を再開させます。仮に企業に感染者がいることが明らかになれば、競争原理でその企業は廃業です。いたってシンプルでしょう」

トゥール氏はもはや呆れた口調で、インタビューを締めくくった。「以上が、市長がラスベガスで展開しようとしている現代の適者生存原理です」

「全員が保菌者」というグッドマン市長の推測は、もし全員が保菌者ならば誰も感染しようがないのだから、全く意味をなさない。だがそれ以上にもっと重要なのは、彼女が文字通り――さながら大規模な人体実験のように――死亡率が成功の物差しになることを前提として、企業活動の再開を支持している点だ。グッドマン市長にはそうした改革を施行する権限はないものの、これだけは言える。彼女がこうした考えを抵抗もなく口にできるとは、なんと恐ろしいことだろう。

Translated by Akiko Kato

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