ピエール中野と手島将彦が語る、現在の音楽業界に必要なメンタルヘルス


ー手島さんは著書で、身の周りに1人でも傾聴してくれる人がいることが大事だと書かれています。そういう場所や人を増やしていくことって可能なんでしょうか?


手島:時間はかかるとは思うんですけど、基礎知識や認識が少しづつ共有されていく中で、あるとき急に高まるっていうことを僕は期待しています。最近でこそ、うつ病とか双極性障害とか知られるようになりましたけど、ちょっと前までは「そんなの甘えだ」っていう意見の方が主流だったと思うんです。知っている人が増え続ければ、ある段階で「知らないってやばいかも」っていう意識が芽生えるかもしれないじゃないですか。今回の著書は、僕がアーティストと関わることが多いからアーティストをテーマに書いたんですけど、アーティストっていう入り口があることで、とっつきにくいテーマだなと思っている方が読んでくれたりするんです。当事者じゃないから知ろうとしないじゃなくて、「あーこの人は悩んでたんだな、こういう人もいるんだね」って思って欲しいんです。

中野:ところでなんですけど、ミュージシャンが困っているときにどうするのが一番良いと思いますか? 例えば精神的にしんどいとか、急に売れてステージが変わってモヤモヤしている人って多いんですよ。そういう人たちに対してできることとかありますか?

手島:僕は困っているミュージシャンをフォローする部署や窓口を用意することかが大事だと思っています。実際に業界の方々に相談したことが何度かあるんですけど「それ良いね!」って言ったまま2年くらい何も進まない。その時に、こういう話に理解はしつつも、勝ち残ってきた人たちは自分が成功してきた分、メンタルとかに関して「自分は乗り越えてきたから大丈夫」っていう考えがあるようにも感じたんです。でも、やっぱりそういうのは然るべき団体があるべきで。例えば、BTSも売れる前から事務所がメンタル教育をしていたりするんです。 K-POPではアーティストが自殺をしてしまうケースもあって、それを教訓にして、売れる前からメンタル教育を重要視したことが、彼らの成功にも繋がっていると思います。なので、売れる前から事務所等でメンタル的な教育をすること、そして、ケアする専門の団体をつくること、の2つが必要だと思います。専門の団体が必要である理由というのもあって、知り合いのミュージシャンが精神科に通っているんですけど、担当の医師の方は仕方がないんですが、ミュージシャンの仕事のことを全く理解していないわけですよ。でもお医者さんの方からしたら、相手のことを知りたいから「レコーディングってどんなことをするんですか?」とか訊くわけですよね。それを一から説明するのがまた疲れる、つらいって言っていて。なので、可能ならそういう知識がある人が最初に対応した方がいいと思うんです。

中野:やっぱりミュージシャンに特化したメンタルケアの窓口が必要ってことですよね?

手島:そうですね、少なくとも基本的なことを分かっている人がいればいいなって。各レコード会社や事務所が少しずつ積み立てて、どこかの事務所で問題が起こったら無料で相談に行ける場所を作るとか、皆で金銭的負担を持ち合えばいいと思いますし。ただ、僕は綺麗事を言うつもりはなくて。ビジネスのことを考えるなら、スタッフもアーティストもメンタルを考えた方がいいと思うんです。売れたら精神的に辛い時期が絶対あるので、先に準備はした方がいい。

中野:僕の話で言うと、事務所に所属したときに事務所の代表が「音楽のことでもメンバーのことでも何かあったらいつでも頼ってくれ」って言ってくれたんですよ。それはメンタルケア窓口に近いものだと思っていて。何かあったらあの人に相談しようっていう気持ちが生まれて、バンド活動も続けられたと思うんですよ。そういう一言だけでもあればいいし、困ったら頼れる場所が築ければなと思いました。

手島:メンタルに限らず、何も起こってない時から防ぐことが大切なんですよね。最初から受け入れ体制ができていることが大事で、もっと慌てなくて済んだこともあると思うので。何か少しでもいい方向に転ぶように変えていければいいなと思っています。



<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/



ピエール中野(凛として時雨)
『Instagramストーリーズ #キリトリ線 2 ~人生の視野を広げるための思考の転換~』


発売日:2020年3月1日(日)
価格:1400円(税込)/グッズ付書籍 4000円(税込)
発行:Vento Books
全国書店にて発売

ピエール中野公式サイト:https://www.pinakano.jp

凛として時雨公式サイト:http://www.sigure.jp

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