ピエール中野と手島将彦が語る、現在の音楽業界に必要なメンタルヘルス

手島:僕はここ20年くらい、プロもアマも問わず、自分で抱えすぎているミュージシャン達を見てきたんですよ。彼らがその辛さを口にしなかったことによって、社会的地位は下がってしまったと思うんです。平たく言うと、物を言わない人に対して、世の中は注目しないんですよ。作品や表現はもちろんありきだけど、社会に対してはやっぱり言葉で伝えないと影響力っていうのは落ちちゃう面もある。何も言わずに全部抱え込んできた結果、ミュージシャンが世の中で無害な存在になっているのかなと思うんですよ。まして、音楽に関心のない人には言葉で伝えないと伝わらないこともある。辛いことでも、言いたい事はハッキリ伝える方が、結果的に物事は好転していくんじゃないかな。

中野:そういう点ではRADWIMPSの野田洋次郎さんなど、作品でハッキリとメッセージを出している方もいらっしゃいますよね。周りのバンドを見ていても、売れれば売れるほど重たい空気が流れていくことはありますよ。抱え込んでいるなって感じた瞬間にすぐ連絡するようにはしているんですけど、「救われました!」って言う人もいるし、「すいません」って言う人もいる。「すいませんじゃないよ! 大丈夫だよ!」って言ってあげた方がいいんですよね。


Zoomでの対談での様子

ーそういう時のケアを周りのスタッフができればいいんですけどね。

中野:そうですね。優秀なミュージシャンを輩出した音楽関係者っていうのは、おそらく肌感覚でそういう接し方を分かっていた方なんじゃないかなと思っていて。天才と呼ばれるミュージシャンは何かしら問題を抱えていることも少なくないので、そこのフォローや、上手く接する方法を知っているんだと思います。

手島:仰る通りです。ただ、その中には、関わったアーティストとの相性がたまたま良くて上手くいったケースもあると思うんです。その場合、理屈として理解しているわけじゃなく、スタッフ側も一つの成功例の方程式を色々なアーティストに無理やり当てはめてしまうと、合わない人ももちろん出てきてしまう。だから、メンタルへの基礎的知識は知っておいて、あとは肌感覚、アーティストへの愛情になってくると思うんです。そこが組み合わさってきたら、お互い試行錯誤しながら螺旋を描くようになんとなく上手くやっていけるんじゃないかな。

中野:めちゃくちゃ大事なことですよ。今お話されたようなことをちゃんと把握している人こそ、マネージャーに採用したくなります。

―最近はコロナウイルスの影響の中で、音楽業界も大変な状況にありますよね。中野さんの周りにいらっしゃる音楽関係者の方は、どんな状況や影響を受けてらっしゃいますか。

中野:SNSを見ていると、音楽業界の人々が本当に業界を離れることを考え始めているっていうのは既に何人か見ていますね。支援の情報をシェアしあって、補助金は本当に貰えるのかっていう話ばかりですよ。ミュージシャンも今の状況でできることは限られていますし、模索しながらやっている時期だと思うんです。ライブハウスでライブをやるっていうのもまだ先になると思うので、大部分の音楽関係者たちが他の仕事を探すことになる。補助がどうなるか、そこに向けて何をしていくのか、早めに動ける人が生き残れることになると思います。僕の場合だと、事務所にも身の回りで聞いた同業者のマネタイズの方法を共有したり、周りのミュージシャンにも、それぞれに合ったやり方を提案できるように調べたり発信し続けています。先日YouTubeで公開しながらミュージシャン仲間とオンライン飲み会をやっていたんですけど、一般の人にも参加してもらったりして。それはもうコンテンツとして面白い番組になったので、一つの形になってよかったなと思いますね。

手島:あとは人それぞれ向き不向きもあると思うんですよ。皆が皆向いていることってないので。自分に合ったやり方を見つけることが大事ですね。

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