世界保健機関(WHO)の実態に迫るーーコロナを巡る米国との関係

中国との付き合い方に対する典型的な答えは、WHOが示してくれた。WHOは、194ヶ国が持つそれぞれの利害、世界の公衆衛生のニーズと人権基準、その他組織に課された役割との間のギャップを埋ねばならないというジレンマを持っている。テドロス事務局長がWHOの役割を明確にして組織の評判を回復したと多くの人は感じているが、十分な資金調達と資金の使い道を決める裁量を持ってミッションをどこまで遂行できるかは、常に加盟国の手綱捌きにかかっているのだ。

「WHOを巡る一連の成り行きから、公衆衛生に投資する重要性を認識して欲しい」とホフマンは願う。「パンデミックが発生した時だけでなく、将来の緊急事態に備えるべきだ。ところがWHOの分担金の増額に抵抗する国がただひとつある。それが米国だ」。

ホフマンが指摘するのは、トランプ政権によるWHOを含む広範囲に渡る公衆衛生関連の予算削減だ。2月10日、米国内でコロナウイルスが広がり続ける中、トランプ政権は2021年の予算案を提示したが。WHOへの支出は53%削減されていた。「WHOの存在価値を認めない米国は、パンデミックに対する準備ができていなかったことを示している」とホフマンは言う。「米国民が他国民と同様に安全でいられるかどうかは、米国民がどれだけ世界経済とつながりを保てるか、そして毎日何人が米国を訪れるかにかかっている。今はグローバル化の時代だ。公衆衛生が未曾有の驚異に晒されている最中にWHOの予算削減を口にするような政府は、公衆衛生のインフラの重要性を認識していないだけでなく、WHOの提案内容の価値も理解していない」。

トランプがどう思おうが、世界のグローバル化はどんどん進んでいる。つまりNATOやWHOなど世界規模の同盟や組織への支出を控えることに、何の意味もなくなってきているのだ。これは特に公衆衛生に当てはまる。今回のコロナウイルスの感染拡大により、米国の取り組むべき最優先事項は、発展途上国に伝染病の予防や対策に必要なインフラを整備させることだと明確になった。阻止しなければ、伝染病は必然的に米国へと入り込んでくるだろう。トランプの掲げる「米国第一主義」によるグローバリズムの拒絶は、正に文字通り米国民の命を危険に晒しているのだ。

「現代の政治・経済のシステムはグローバル化によって支えられている。しかし同時に私たちが直面するリスクも高めている」とミネソタ大学ダルース校のユード教授は説明する。「人やモノが国境を越えるのは簡単だが、同時に伝染病が急激に広まる可能性も高まる。しかしグローバル化は同時に、感染対策に必要なツールも与えてくれるのだ。感染対策のリソースを有する組織があれば、感染を早期に察知して世界中へ確実に情報提供することで、各国は準備ができる。或いは実際に感染が広まったとしても、素早く対応できるだろう」。

米国、中国、ロシアなどの超大国は、世界的に組織された伝染病対策を早急に推進しようとはしていない。しかしWHOのような組織への出資を促すきっかけがあるとすれば、それはコロナウイルスのもたらした惨状だろう。特に経済的な影響は大きい。「コロナウイルスが収束した暁には、WHOのパフォーマンスやミッションについての国際的な議論が行われることを期待している。また、今後コロナウイルス感染拡大のような事態に見舞われた時に備えて世界的な公衆衛生が必要とする多くのリソースについても、話題として取り上げて欲しい。最終的に世界経済にもたらされる効果は、何兆ドルもの価値があるだろう」とジャー所長は言う。

経済への影響、死者の数、或いは私たちが直面している社会の混乱など何でもよいので、世界をどのように動かしていくかについての、サイモン・フレイザー大学のリーの言う「深刻な」課題を考えるきっかけとするべきだ。次回のウイルスは、もっと迅速に広がって甚大な被害をもたらす可能性もある。さらに今のグローバル化の規模を考えれば、必ず「次回」は訪れるだろう。「何がきっかけで人々は目を覚ますのだろうか?」とリーは言う。「大規模な伝染病の感染拡大や大災害がきっかけになると、私は常々言ってきた。今がその時だ。私たちは経験した。今回の事態から学べれば、次回に十分備えられるだろう。しかし人々が深刻な課題を直視しようとしないのが問題だ」。

※本記事は、台湾がWHOに加盟する条件は国連加盟が前提となる点を加味して改訂した。

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Translated by Smokva Tokyo

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