NY発、人工呼吸器不足の深層「豚インフルエンザの誤った教訓」

2020年3月24日、ニューヨーク市緊急事態管理局の倉庫で行われた記者会見で展示された人工呼吸器(Photo by Mark Lennihan/AP/Shutterstock)

2006年に専門家が作成したパンデミック対策プランでは、米ニューヨーク市で9500台もの人工呼吸器が不足するだろうと警告していた。だが市が購入したのはたった数百台。それも結局、維持費が賄えずに処分された

2006年7月、アジアと中東で強力な新型インフルエンザが蔓延し、当時のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグ氏は包括的なパンデミック対策プランを発表した。

ウイルスが市の5つの行政区に広まるスピードをコンピュータモデルで計算した結果、専門家たちはニューヨークには相当数のマスクと人工呼吸器の備蓄が必要だと結論づけた。1918年のスペイン風邪級の大流行が起きれば、「推定2036~9454台の人工呼吸器が不足するだろう」と予想した。

報告書によれば、市の保健局はニューヨーク州と協力して人工呼吸器の購入に乗り出し、「マスクを備蓄する」予定だった。プランが公開されてほどなく、ブルームバーグ市長は連邦政府高官とパンデミック対策協議を開き、そこには現在国のコロナウイルス対策の顔となったアンソニー・ファウチ博士の姿もあった。

だが結局、この恐ろしい予測も行動を起こすには至らなかった。数カ月後に市が追加で購入した人工呼吸器はわずか500台。予算削減の中で、備蓄増加の動きも次第に途絶えていった。

その500台も実は無くなっていたと先日、保健局が発表した。命綱の人工呼吸器は年月が経つにつれ故障し、市が機器の維持費を賄えなかったため、少なくとも5年前には競売にかけられていた。

パンデミック対策プランの公表から14年が経過した現在、新型コロナウイルスの死者は連日数百人単位で増加し続け、人工呼吸器の不足によりこれからもまだまだ増えるだろう。パンデミックが始まった当初、市には約3500台の人工呼吸器があったが、先日そろそろ在庫が底をつくだろうとビル・デブラシオ市長が発表した。アンドリュー・クオモ州知事は、州兵がまだ余裕のある病院から人工呼吸器を回収し、より緊急を要する病院に回すことを承認した、と述べた。

・臨戦態勢の米ニューヨーク、1000床備えた仮設病院の内部公開(写真ギャラリー)

初めのうちは、連邦政府が国の戦略備蓄からニューヨークに人工呼吸器を適宜補充してくれるだろうという期待もあったが、主要な中央省庁もパンデミックへの準備が出来ていなかったことがわかると、その望みも消えた。COVID-19危機でトランプ政権による国家備蓄のずさんな管理も明るみになり、その備蓄もパンデミックが全米で猛威を振るうにつれ、多くの州から要請が殺到しても、到底応じることができないほど在庫薄であることが判明した。実際のところ、国が備蓄していた人工呼吸器の一部もニューヨークと同じ状態――故障して動かなかった。

Translated by Akiko Kato

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