史上最強のA&R・近藤雅信、東芝EMI時代の清志郎、渋谷系を語る



田家:お聴きいただいていているのは近藤さんが選ばれた曲ではなく、こちらからこの曲を入れたいなと思ってお送りしています。ORIGINAL LOVEで94年4月に出たシングル「朝日のあたる道」。アルバムは94年6月に出た4枚目で名盤『風の歌を聴け』ですね。このアルバムにA&Rチーフとしてクレジットされているのを見つけまして、これを入れようと思いました。このアルバムの話を聴かないわけにはいかないなというのは、渋谷系というのがあるんです。次におかけする曲が、近藤さんが選ばれたのが、そういう流れの曲だったので、この曲から始めたいなと思った次第です。このアルバムはどんなふうに覚えてらっしゃいますか。

近藤:イケイケの時期じゃないですか。ORIGINAL LOVEとしてもイケイケの時期で。音楽産業が高度に成長していく時期で。98年ぐらいまでレコードビジネス、CDビジネスがグワーっと伸びていく時期で、製作費もけっこう潤沢にあった(笑)。やっぱりある程度使わないといいものは作れないというのはありますよね。各社、いい音で、練りに練った作品が出た時期じゃないですか。

田家:ピチカート・ファイヴとORIGINAL LOVEとフリッパーズ・ギターがちょうど重なり合っているような時期で、田島さんは自分でライブで否定していましたけど、「俺は渋谷系なんかじゃねえよ」って。そういう認識は近藤さんたちの中でもおありになった?

近藤:渋谷系って意識はないですね。むしろそれはコピーのひとつで、あまりそういうことは考えていなくて。それよりも小西くんとかフリッパーズの2人とか、田島くんとか音楽を聴いている量がすごく多い。その豊かな音楽体験を自分の作る音楽に反映できているっていう人たちですよね。細野さんとかもそういうところがあると思うんですけど、持っている音楽の質、数の埋蔵量がともにとびきり多いから、それを風通しよくちゃんと反映できた人たちですよね。それと渋谷のHMVですよね。そこに太田くんっていうバイヤーがいて、一階のコーナー、洋楽・邦楽・雑誌・単行本とか、彼が選ぶ種々雑多なコーナーがあって。そこでハーパース・ビザールのCDとピチカート・ファイヴを並べたらいいみたいなことをやっていて、そこから生まれて行ったんだと思いますよ。渋谷系って名前は。あと、ピチカート・ファイヴもORIGINAL LOVEもフリッパーズ・ギターも、アートディレクターが同じだったんですよ。コンテンポラリーの信藤(三雄)さんって方で、信藤さんの役割も大きいかもしれませんね。ブルーノートの一連のシリーズもトータリティがあるから。ネーミングって、J-POPなんかも、シティミュージックというのもそうですし、ニューミュージックというのもそうですし、ある種のくびきみたいなものは売る側が考えるものだから。

田家:そういう近藤さんが選ばれているのは94年3月に出た小沢健二 feat. スチャダラパーで「今夜はブギー・バック」です。

Rolling Stone Japan 編集部

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