サンダーキャット×休日課長が語る、この時代に弦のベースを弾くことの意味

弦のベースだから表現できる「文脈」と「ニュアンス」

ー2人にとって「ベースヒーロー」は誰ですか?

課長:まずはイエスのクリス・スクワイア。彼も技巧派のイメージがあるけど、全ての楽曲で重要なイメージづくりを担っているし、細かいパッセージだけじゃなくて、ロングトーンのアプローチも素晴らしい。そこの「使い分け」や「組み合わせ」も絶妙なセンスなんですよね。あなたと一緒で、他にいないベーシストだと思います。


課長の愛聴盤、イエスの1974年作『Relayer』より「Sound Chaser」

TC:ありがとう。クリス・スクワイアは素晴らしいベーシストだ。俺は、やっぱりジャコ・パストリアス。このベースという楽器の可能性を広げてくれた第一人者だしね。プレイスタイルに対する批判もすごく多かったけど、でもイノヴェーターってそういうものだからさ。ジャコはそれまでの音楽の歴史から逸脱することなく、新しい可能性を見つけ出そうとしていた。彼以前にも素晴らしいベーシストはたくさんいたけど、ジャコはベースという楽器のモダナイゼーションに大きく貢献したと思う。マシュー・ギャリソンのような新世代のベーシストにも影響を与えているし、それこそ俺自身、マイルスやジャコとメトロ・ブーミンとの狭間で何かをつかもうとしているのかもしれない。彼らがまだやっていない何かを。


サンダーキャットは自身のルーツとして、『Jaco Pastorius』(邦題:ジャコ・パストリアスの肖像)をたびたび挙げている



ーメトロ・ブーミンはミーゴス、フューチャーや21サヴェージらとの仕事でも知られるヒップホップ・プロデューサーで、「ベーシスト」ではないですよね。

TC:そうだね。ただ、ベースの役割を更新したという意味で彼の存在はとても大きい。ジャコの延長線上にメトロがいると考えることは可能だし、そうなるとベース・ギターのあり方そのものを考え直さなければならない気がする。「要らないものは排除していく」のが進化だとしたら、ベースも進化の過程で消えていくものなのだろうか。そんなふうに考えられなくもないけど、だからこそベース・ギターを敢えて演奏していくことがチャレンジでもあるんじゃないかな。

ー最近はシンセ・ベースがいろんな方面で人気ですが、ベースの重心がどんどん下がっていく中で、弦を弾くタイプのベースだからこそ表現できることはあると思いますか?

TC:Context(文脈)。俺が参加したケンドリック・ラマーの「King Kunta」(『To Pimp A Butterfly』収録)を聴けば、言わんとしていることがわかると思う。あのプロダクションはものすごくハイレベルで、ヘヴィでハードな新しいベース・サウンドに挑戦しているんだ。あれってRoland TR-808だけじゃ作れないんだよね。生ベースのオーガニックな「揺れ」がどうしても必要で、プロデューサーのSounwaveと相談しながら、ジャズのフレーズを保ちつつTR-808に負けないくらい大きなサウンドを出せないかチャレンジしたんだ。



課長:僕はやっぱり「ニュアンス」が大切だと思いますね。弦を指で弾いた時の、独特のニュアンスはやっぱりシンセベースでは難しい。たとえ耳で明確に聴き取れなかったとしても、それこそさっき話したように「無意識に訴えかけるもの」がそういうニュアンスだと思います。あと、素早く反応できるところも生ベースの良さじゃないかな。「こういう音色で、こういうニュアンスで弾いて」とオーダーを受けた時に細かいニュアンスをすぐに表現できる。

TC:全くその通りだね。ニュアンスはとても重要だ。俺の最新作『It Is What It Is』は、まさに今話したような流れの中で、新しいサウンドやスタイルを作りたかった。ペダルやラックに頼らないナチュラルなベース・サウンドと、自分が持っているスキルだけで「今の音」に負けない作品を目指したんだ。昔からそういうチャレンジは好きなんだよね。

Translated by Kazumi Someya

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