【追悼】アダム・シュレシンジャー 長年の親友が大学時代からの思い出を綴る

デビュー翌年、1997年のアダム・シュレシンジャー(Photo by Kimberly Butler/The LIFE Images Collection via Getty Images)

ファウンテインズ・オブ・ウェインのオリジナルメンバー、アダム・シュレシンジャーが4月1日に新型コロナウイルスによる合併症で亡くなって以来、友人やコラボレーターたちからのトリビュートが次々に出されている。ここでは作家で脚本家のデヴィッド・バーカッツがシュレシンジャーとの35年間の友情を回想する。

この世界には、この先絶対に聞くことができないにしても、心の中にしっかりと刻み込まれる曲がある。ずっとリリースを待ちわびた旋律だったのに、この先絶対に完成しない曲もある。自分の未来予想図を明るくしてくれた仲間の表情は今では影を帯びてしまった。過去のものとなってしまった彼の灯火は、今では背後からしか灯りを放たない。

みんなと同じで、私も新型コロナウイルスが命を奪うのは年配の人たちだけ、もしくは若くても持病のある人だけだと思っていた。アダム・シュレシンジャーはそのどちらのカテゴリーにも入っていなかった。しかし、私の知るアダムは知り合って以来、数々のカテゴリーを巧妙に避けて生きてきた。

私たちが知り合ったのは1985年。場所はウィリアムズ大学。二人は隣接する寮に住むことになり、フィラデルフィアとニュージャージーというWASP臭の強いニューイングランド地方出身で、似たような環境で育ったユダヤ人の私たちはあっという間に意気投合した。仲の良い同期生たちが宗教や経済学101について話すのを尻目に、私たちは不可避な大虐殺が起きたときの脱出計画を冗談交じりに語っていた。アダムは私には脱出計画に最適な手立てがあると考えていた。プレパラトリー・スクール時代に着ていたブルックス・ブラザーズ製の制服が、検問を「通過」できる最高の変装だと言っていたのである。私はアダムは絶対に生き残ると言っていた。「お前の音楽の才能を買って連中は生かしてくれるぜ」と。

それに対してアダムは「最高だね。俺は収容所でナチスのためにモーツアルトを演奏したユダヤ人みたいになるってことだな」と返した。

大学での1年目はまだCDが登場する前で、カセットテープとラジオが主流だった。私の部屋に置かれた大量のレコードを見つけたアダムは、驚異的な集中力でレコードを吟味し始めた。私の音楽趣味を確認するというよりも、私の日記を読んでいるような掘り下げ方でレコードを漁っていることに気付いた。ブラック・フラッグ、ザ・スペシャルズ、ヤズーは合格。ジェリー・マリガン、ミンガスの『直立猿人』、ディオンヌ・ワーウィックの『Make My Way for Dionne Warwick(原題)』も合格。しかし、アダムが引っ張り出した手を高く上げたアルバムが1枚だけあった。ポリスの『白いレガッタ』だ。このアルバムは聴きすぎたために青いジャケットが擦り切れていた。アダムは注意深く分析し、そして真剣な表情で「お前、これはもっと聴かないとダメじゃないか」と言って、私に対する批評を展開しながらアルバムを絶賛するという荒業を披露したのだ。互いの人となりを深く知るようになって、この時のアダムの言葉が完璧だったことに私は気づくことになる。彼は真剣そのものだった。同時にあの言葉は冗談でもあった。

彼が在籍した中でも最も知名度の高いバンドの名前も彼らしかった。そう、ファウンテインズ・オブ・ウェインだ。神秘的で、自然の雄大さと水のパワーを秘めており、なぜだかどこか伝説的にすら聞こえる。これはニュージャージーにあるショップの名前だ。この店ではマクマンション(訳註:郊外に連立する低品質の大量生産住宅のことを指す)の前庭によくある芝生用の噴水機を売っていた。もちろん、バットマンの住処ウェインマナーの前庭にもこの噴水機がある。

大学でアダムがやっていたバンドはザ・リズム・メソッドと呼ばれていて、大きなパーティーなどで演奏していた。彼らは完コピしたカバー曲を演奏していたのだが、これを書いている今浮かんでくるのが「テイク・オン・ミー」と「パープル・レイン」だ。キーボードやベースを弾くとき、そして歌うときのアダムの嬉しさ半分、心配半分の表情が今でも浮かんでくる。あの表情には、モノマネしながら曲を歌う彼、音楽を慈しむ彼、心配性のリーダーの彼が読み取れた。バンド名をネタにアダムをからかっていたことも思い出す。「The Rubbers(訳注:コンドームの意)とか、The Diaphragms(訳註:ペッサリーの意)の方がパンクっぽくてクールだぜ」と。

「まあな。でもザ・リズム・メソッドの良さは、このバンド名がバンドに合っていないってみんなが知っていることさ」と、アダムは言っていた。

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE