ウイルス感染の危険を覚悟で働く「買い物代行者」の悲しい現実

2020年3月30日、シカゴのスーパーマーケットで注文の品を買い揃えるInstacartのスタッフ。(Photo by Laura McDermott/The New York Times/Redux)

Instacart(インスタカート)は、アプリを通じて食料品の即日配達が受けられるサービスだ。アメリカではamazonと同じような感覚で多くの消費者が使う。全米を襲うコロナ危機の中、Instacartの利用者は増えているが、その一方で従業員には大きなリスクと厳しい現実が突きつけられている。

3月16日、ローラ・リッチーさんはその日最後のInstacartの注文を届け、帰路についた――喉がいがらっぽい感じがしたが、数日安静にしていれば治る、フルタイムで働いている人と同じだけ稼ぐために掛け持ちしている単発の仕事に復帰できる、そう思っていた。だが5日後、目が覚めると呼吸が苦しく、すぐに助けが必要だった。

「地元のホットラインに電話しました。『すみません、どうすればいいでしょう、主治医はいません、職業柄、健康保険に入れていません、医師の診察が必要です』」とリッチーさん。小一時間ほど電話でやりとりをしてやっと、すぐに地元の救急処置室に向かって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査を受けるよう指示されたそうだ。

「その日病院を出るとき、検査結果が出るまで『2~5日かかる』と言われました」とリッチーさんは続けた。「それですぐ、仕事していたアプリ全てに『検査してきました。隔離されています。これが病院の診断書です。退院証明書です。入院時のブレスレットの画像も送ります』と連絡しました」。 契約先の会社から、コロナウイルス対策として何らかの金銭的な支援が受けられるだろう、と期待していたのだ。結果、自動返答の通話をたらい回しにされた末、最終的にはばっさり断られた。

「Instacartからは、提出書類が不十分だと言われました。PDFで書類を送るので、それに記入してもらう必要がある、と」とリッチーさん。「でも私は自主隔離中で、外に出られないんです。今頃送られて来た用紙を持って、病院に戻って誰かのサインをもらって、メールで送り返せなんて、できるわけありません」

ここ数日、同社は得意げに、従業員に衛生用品を支給し、店内ショッパー――特定の店舗で働くパートタイムの従業員――には傷病手当の適用範囲を拡大し、ボーナスも出している、と自分たちのコロナウイルス対策をひけらかしている。だがリッチーさんのようなフルサービス・ショッパー、つまり複数の店舗を回るだけでなく、顧客の自宅へ宅配までする契約スタッフの場合、感染していると正式に診断されたか、政府または公衆衛生当局から隔離ないし検疫を命じられた場合のみ、2週間分の賃金が支給される。

リッチーさんの事例は、コロナウイルス・パンデミックによるInstacartのスタッフや、何千万人もの日雇い労働者の窮状を浮き彫りにしている。顧客からも会社からもかつてないほど必要とされ、国民の大半が感染予防のため自主隔離までしなくてはならないようなウイルスの脅威に常にさらされているのに、企業は彼らに、他の従業員には与えられている保護を未だ提供していない。

Translated by Akiko Kato

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