劇伴作家でありアーティスト、澤野弘之が語る創作の裏側

劇伴にボーカル曲を取り入れた理由

―一方で、澤野さんの場合は、劇伴にボーカル曲を積極的に取り入れているのも特徴的ですね。デビュー直後の2006年に音楽を担当したTVドラマ『医龍 Team Medical Dragon』でも、関山藍果さんが歌った挿入歌「Aesthetic」が話題になりました。

もともと菅野よう子さんがアニメの挿入歌として歌モノをたくさん使っているのを観ていましたし、劇伴作家を目指す前は小室哲哉さんやASKAさんの影響で「歌モノの音楽をつくりたい」と思っていて。それもあって、もともとサントラにも歌を入れることに興味があったんだと思います。そもそも、ハンス・ジマーの『グラディエイター』の挿入歌もそうだし、『タイタニック』のセリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go On」もそうで、国内外の映画やドラマでも、挿入歌として歌モノが入ることで作品やサウンドトラックのフックになることって多いと思うんですよ。『医龍 Team Medical Dragon』の場合は、当時の音楽プロデューサーの方が「歌があってもいいんじゃないか」と言ってくれて、僕の興味と一致した形でした。僕としては、そうやって挿入歌を積極的に取り入れることで、結果的に「サントラに興味を持ってもらうきっかけになればいいな」とも思っています。もちろん、作品に寄り添うことが第一ですが、挿入歌を目当てに買ってくれた方の中から、誰かひとりでも他の曲を聴いてくれて、「サントラって面白いな」と感じてくれたらいいなとも思うので。

―歌モノに関しては、デビュー当時はどんな音楽からの影響があったんでしょうか?

デビュー当時だと、ニッケルバックやコールドプレイ、マルーン5のような洋楽のロックやポップスに影響を受けていて、それは今もずっとある要素だと思います。たとえばAimerさんとの「RE:I AM」(『機動戦士ガンダムUC』episode 6「宇宙と地球と」主題歌)のエレキギターやドラムの質感は、自分なりにニッケルバックからの影響を咀嚼したものだったんですよ。それにプロになる前は、僕はエアロスミスにものすごく影響を受けていて。特に、『ジャスト・プッシュ・プレイ』(2001年)の1曲目の「Beyond Beautiful」や、あのアルバム全体のドラムやギターの響きが好きで、僕の歌モノでドラムが「バシッ!」と鳴っているのは、この辺りの影響が大きいんだと思います。



―ああ、なるほど。

もっと最近で言うと、ワンリパブリックも好きで聴いてきたアーティストです。僕は生ドラムも好きですけど、そこにエレクトロの要素を加えたり、ドラムだけ打ち込みにしたりしているものの方が好きになる傾向があるんですよ。たとえば、KOЯNがEDMを取り入れたときも「めちゃくちゃかっこいいな」と思ったし、フォール・アウト・ボーイの楽曲もそうですし――。そうやって触れてきたいろんな興味や影響のようなものから、自分の音楽ができているのかな、と思いますね。

―今回の『BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』は、澤野弘之名義の楽曲と、OP/ED曲などを担当するアーティストプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]名義の楽曲がそれぞれ収録されています。中でも特に印象に残っている曲はありますか?

DISC1だと、直近の作品なので余計に印象的に思うのかもしれないですが、まずは昨年公開の映画『プロメア』のメインテーマ「Inferno」ですね。この曲は作品の重要な場面で何度も流していただいて。あんなふうに印象的につかってもらえたことが、僕自身すごく嬉しかったですし、作品を観てくださったお客さんからの反響もあって、去年ライブでやったときの会場の一体感も印象的でした。そういう意味でも、近年つくった曲の中で自分にとってすごく大事な曲だと思っています。

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