歴史家が語る、かつての伝染病流行から学ぶ「コロナ危機を乗り越える方法」

黒死病(ペストの大流行)から世界を救うために自分を鞭打ちながら通りを練り歩く人々の様子を描いたクロモリトグラフ(1349年 オランダ) Ann Ronan Pictures/Print Collector/Getty Images

1300年代中期にヨーロッパの人口を半減させたペストの大流行、黒死病流行前夜のヨーロッパはどのような状況だったのか? 崩れた社会システムの回復に成功した歴史上のリーダーたちは? 伝染病、パンデミックや帝国の衰退、さらに米国は立ち直れないほど疲弊しているのかなど、中世を専門とする歴史家に、ローリングストーン誌がインタビューした。

パトリック・ワイマンとのインタビューを始めてから35分。筆者は彼の話に身の毛もよだつ思いがした。

ヨーロッパの歴史、特にローマ帝国の滅亡とその後の世界を専門とする歴史家のワイマンを訪ね、彼がマザー・ジョーンズ誌に寄稿した記事について話し合った。ワイマンは、ローマ帝国の滅亡によって結束を固くした社会と崩壊した社会について書いている。そしてもちろん、話題は最近の伝染病とパンデミックへと移った。ワイマンは1300年代中期にヨーロッパの人口を半減させたペストの大流行を引き合いに出し、黒死病流行前夜のヨーロッパがどのような状況だったかを解説してくれた。

長期に渡る景気拡大と人口増加が頭打ちになった時、賃金は下がり、農奴は苦しい生活を強いられていた。一部の富裕層が贅を尽くして貧富の差がますます広がり、長い間安定していた経済状況も雲行きが怪しくなってきた。そしてついにパンデミックが訪れる10年ほど前には、ビジネスを広げ過ぎた伝統ある大企業が次々と倒産に追い込まれ、経済危機を招いた。

彼の発言に、二人とも現在との共通点を見出すと同時に不気味さも感じた。しかし彼が笑い出すと、筆者も続いた。悲観的な状況だ。恐怖を感じるが、私たちにいったい何ができるのだろうか?

現在の状況に無力さを感じる。私たちは皆お手上げ状態だ。毎日コロナウイルスの感染者数が増えていくのを眺めながら、私たちが実践している社会的距離戦略に効果があるのかどうかの結果をただ待っている。或いは既に手遅れなのだろうか。私たちの行く末は自分の手で変えられるのか、それとも決して逃れられない歴史のサイクルにはまり込んでしまっているのか。安定した素晴らしい社会を築いたと自負する人々は、下り坂の時代ではなく上り調子の時と場所にたまたま生まれただけだ。そう考えるしかないのか?

幸いなことに、筆者よりずっと歴史に造詣が深いワイマンは異なる見方をしていた。現在が深刻な状況であると見る点では筆者と共通しているが、最終的には明るい未来が待っているとワイマンは見る。

ワイマンとは、私たちの明るい将来についての話のほか、『帝国の崩壊を生き抜いた私たち』と題した彼の記事、社会に影響を与えた歴史上のパンデミック、古代ローマ人だったら現代のコロナウイルスをどう乗り切るか(或いは乗り切れないか)などについて話し合った。

注:本インタビューは一部内容を編集しています。

ー筆者: 古代ローマ帝国に関するあなたの研究の中で繰り返し主張されているのはつまり、私たちが高校で学んだ歴史は間違っている、ということです。ローマ帝国が滅亡したのは異邦人による侵略が原因でないという説は、今でも驚きです。侵略を受けた時、ローマ帝国は既に衰退していたという話でした。あなたはローマ帝国の盛衰を現在の米国とも比較しています。古代ローマ帝国と現在の米国とは、COVID-19問題も含め、どのような共通点があるのでしょうか?

ワイマン: 政治的な正統性、対策を必要とされるパンデミック、或いは突然起きた外国との激しい戦争など、あらゆる危機が存在する。それらの危機が既に悪化しているのではないか、または恐らくもう回復するのは難しいのではないかという状況の下では、何でも起こり得る。根深い問題は危機的状況になって初めて表面化し、そして誰もが目に見て取れるほど劇的な終わりを迎えるのだ。

私たちは危機も崩壊も経験している。そして両者を同じように扱っている。人は物ごとをストーリー仕立てにする生き物だ。私たちはそうやって世界を見ている。物ごとをクライマックスのあるストーリーとして認識し、崩壊はクライマックスとして捉えるのだ。より分析力のある目を持ち、システムの崩壊につながるとても小さなひとつひとつの出来事の集まりを見極めるのは、とても難しい。とはいえ、危機につながるひとひとつの小さな出来事自体は問題の直接的な原因とはならないが、問題を助長させる要因となる。

Translated by Smokva Tokyo

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