歴史家が語る、かつての伝染病流行から学ぶ「コロナ危機を乗り越える方法」

黒死病(ペストの大流行)から世界を救うために自分を鞭打ちながら通りを練り歩く人々の様子を描いたクロモリトグラフ(1349年 オランダ) Ann Ronan Pictures/Print Collector/Getty Images


ー現在のCOVID-19への対応には、崩壊、システムの機能停止、問題の助長が見られるでしょうか? 既に限界に来ているシステムの崩壊についてのあなたの指摘は、米国内のICUのベッド稼働率が常に90〜98%だというレポートでも裏付けられています。

正に私の言わんとしていることだ。失業率や回復力よりも効率やシェアホルダーの利益を優先する社会では、そのような結果になる。私の考えでは、それが崩壊につながると思う。シェアホルダーの利益に応えるためICUの収容能力を繰り返し減らすなど、私に言わせればシステムの崩壊だ。公共の福祉は必ずしも優先しなくともよい、などと言っているように思える。

公衆衛生を維持するためにかなり無理をして個人消費を抑えねばならないような経済には、システム全体に不健全さが潜んでいるといえるだろう。政治経済のシステムのどこかに欠陥があるから、コロナウイルス・ショックに耐えられなかったり対応できなかったりするのだ。失業率が20〜25%に上昇し、食に困る人が増え、病気になって多額の医療費を負担しなければならない人が増加するようなシステム全体の危機は、コロナウイルス以前の潜在的な問題が原因になっている。

ー「危機によって社会が崩壊するのでなく、危機が訪れた時には既に社会が崩壊していた事実が発覚するのだ」という論理が当てはまる、世界を変えた歴史上の出来事はありますか?

人口の40〜60%が犠牲になった地域もある、1300年代中期のペスト流行が挙げられる。当事者にとっては大惨事のように思えただろう。しかしペスト流行に至るまでのヨーロッパの状況を見ると、既に進行していた多くの問題がパンデミックをきっかけに加速したことがわかるだろう。

1200年代の終わりから続く長期的な景気後退の末に、黒死病の流行が訪れたのだ。それ以前のヨーロッパは「商業革命」による経済の全盛期で、遠距離の貿易が瞬く間に広がり、より多くの貨幣が流通し、経済は成長し続けた。しかしこの経済成長は、人口の増加に支えられたものだった。ヨーロッパ全体を見ると、この時期に人口が倍増したり3倍にまで膨れ上がった地域もあった。

そうして13世紀(1200年代)の終わり頃には、農耕に使用できる土地はほとんど残っていなかった。じめじめして起伏があり農業に適さないような土地ですら、耕作に使われる状態だった。ただ、賃金が極端に低い人々を農業に使えた。多くの人々は自分の土地を持たず、ギリギリの生活を送っていた。土地を使わせてもらう代わりに領主に対して無償でサービスを提供しなければならないという交換条件が、当時盛んだった農奴制度を支えていたのだ。

気候的な要因もある。経済の全盛が長く続いた背景には、穏やかで暖かい天候があったのだ。種まきと収穫の時期さえわかればよい農夫にとって、天気良いかどうかというよりも、先の天気がどうなるか予測することの方が重要だ。しかし1200年代の終わりから1300年代初頭にかけて、天候が非常に悪くなった。天気が予測しにくくなり、雨が多く気温も下がった。さらに1315年〜1322年には西ヨーロッパを「大飢饉」が襲い、数え切れないほど多くの人々が亡くなった。その時点で、何らかのシステム的な誤りの兆候が現れていたと言える。そしてこの状況が黒死病の大流行まで続いたのだ。

ペストが大流行する以前の1340年代中期、ヨーロッパ全土を支えていた歴史上「スーパーカンパニー」と呼ばれる多くの超巨大企業が倒産した。経営が行き詰まった原因はさまざまだが、各企業がビジネスを広げ過ぎたのと、経済全体の不安定さが大きな原因となった。

お金に余裕がない。人口が多い。賃金が低い。地価が高い。これらは全て、これからやってくる最悪の低迷期の予兆と言える。

ーどんなに酷い状況のことを仰っている自覚していますよね?
(ワイマンは長い沈黙の後で笑いながら答えた)

そう。図式的に説明してみると悲惨な状況に思えるだろう。興味深いのは、多くの人々が亡くなった後ではもちろん経済的な低迷期が訪れるが、長期的に見るとペストは西ヨーロッパの生活環境、特に百姓の生活をかなり向上させた。地価の下落と共に土地を所有できる人が増え、より健康的でバランスの取れた食事ができ、収入も増えた。

しかし深刻な犠牲も伴う。百姓の生活を改善するために、「サノスの指鳴らし(訳注:映画『アベンジャーズ』などに登場するキャラクター)」で人口の半分を強制的に消滅させたりしてはいけない。

Translated by Smokva Tokyo

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