新型ウイルスの恐怖を描いた映画『コンテイジョン』が再注目された理由

名作『アウトブレイク』(1995年)や低俗な『復活の日』(1980年)など、ウイルスとの戦いを描いた映画が数多く存在するなか、『コンテイジョン』は、どうにかして現状を把握したいと思う人々にこぞって選ばれている。今年の1月、エンターテイメント業界のニュースを扱うハリウッド・レポーター誌は、10年近く昔の同作がiTunesのレンタル作品トップ10にランクインしたと報じた。一部の都市が緊急事態宣言を出した直後、同作はiTunesチャート(米国版)の4位にランクインした(パソコンやApple TVからiTunesアプリを起動すれば、同作がレンタルチャートで『スキャンダル』に次いで2位であることがおわかりいただける)。数日前、同作の脚本を手がけたバーンズは、時事問題・テクノロジー・文化などを扱う米Slate誌のインタビューで「ソーシャルメディア上であれ、友人との会話であれ、みんなから『不気味なぐらい似ている』と言われます」と述べた。ここでバーンズが言う類似点とは、同作に登場するMEV-1という架空のウイルス(潜伏期間は72時間で、現段階での新型コロナウイルスの致死率をはるかに凌ぐ)ではなく、日常生活がストップするにつれて世界が壊れていく感覚だ。スクリーンのなかで媒体物や正しい手洗い方法について専門家が語る様子(劇中のテレビモニターではなく、実際のスクリーンに映るシーン)を観ていると、鏡のなかの別の世界に入り込んでしまったような感覚を抱いてしまう。


『コンテイジョン』の出演者のひとりであるケイト・ウィンスレット

多少の意外さとともに『コンテイジョン』がまさにいま、再びスポットライトを浴びるようになった理由は、ひょっとしたらそれが最悪のケースを描いたとんでもないシナリオではなく、不気味にもリアルなものだからかもしれない。パルトロウ級の俳優が映画の序盤で死んでしまうのだ。このような状況で人間を攻撃するウイルスは宇宙人の産物なんかではない。ましてや、恐怖を利用しようとする保守派のニュースネットワークが言うように、アメリカ的ライフスタイルの崩壊を目論む他国のスパイによるものでもない。入念なリサーチにもとづいて制作されたソダーバーグとバーンズのシナリオのなかでもっとも恐ろしいのは、ウイルスの遺伝子構造が明らかになってから科学者が「出会ってはいけない豚とコウモリが出会ってしまった」と言うように、MEV-1がまったくの偶然の産物であることだ。映画のラストで「1日目」が回想されるまでは、とるに足らないセリフに聞こえるかもしれない。「1日目」では、コウモリが養豚場に紛れ込み、バナナを落とす。偶然にも、豚がそのバナナを食べてしまう。豚は屠殺され、マカオのカジノで誰かのディナーとなる。レストランのシェフがゲストのビジネスウーマンと握手をする。カジノでクラップスに興じながら、その女性が隣に座っていたビジネスマンのサイコロに息を吹きかける。一連のまずい行動がぴたりとハマることで未知のウイルスが生まれるのだ。

Translated by Shoko Natori

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