UK音楽シーンにおける、2020年の新たな地殻変動を読み解く

キング・クルールとトム・ミッシュに続く音楽家たち

南ロンドンに話を戻そう。同地にいながらにして、シーンと距離を置く孤高の存在がキング・クルールだ。新作『Man Alive!』を世に問うたばかりの彼は、自身の作品でジャズ、ロックンロール、パンク、ヒップホップ、ダブなどを自在に織り交ぜつつ、エドガー・ザ・ビートメイカー名義でラッパーのジェイダシー(Jadasea)をプロデュースするなど、どこにも属さないまま、軽やかにシーンやジャンルを横断している。



10代でデビューしたキング・クルールは、寡作ながらその強烈なカリスマ性によって、ロンドンで大きな影響力を持つに至った。例えば、チェット・ベイカーがギタリストに転生したかのようなオルタナティブジャズシンガーのプーマ・ブルー。キング・クルールの兄とディック・ウーズ(Dik Ooz)として活動していた経歴を持つジャークカーブ。彼らの歌唱やギターの音色、ドリーミーな感覚からは、キング・クルールのそれに近いものを聞き取れる。




また、プーマ・ブルーとジャークカーブは、キング・クルールと同じブリット・スクールの出身という共通項も持つ。アデルやエイミー・ワインハウスを輩出してきた同校は近年、レックス・オレンジ・カウンティコスモ・パイクロイル・カーナーといった新世代の才能を多く輩出しており、ここ日本でもWIREDCINRA.NETで取り上げられるなど、その教育方針も含めて注目が高まっている。また、キング・クルールと親交のあるジェイミー・アイザックレジー・スノウが2018年にブレイクしたのも記憶に新しい。

さらに南ロンドン、そしてポストジャンル的な音楽家といえば、トム・ミッシュを忘れてはいけない。2018年の話題をさらった『Geography』がロングヒットとなり、星野源との共作も話題となったギタリスト/シンガー/プロデューサーは今、新たな地平へと進んでいる。彼の次作は、ジャズ・ドラマーのユセフ・デイズ(Yussef Dayes)との共演から生まれた『What Kinda Music』(4月24日リリース)。ジャズ色と実験性を強めつつ、トム・ミッシュならではのメロディアスな作曲センスも発揮された同作は、彼のシリアスな音楽家としての姿勢を改めてアピールする作品となりそうだ。

さらに、当時19歳のトム・ミッシュが2014年に発表し、その才能を開花させたセルフリリース作品『BEAT TAPE 1』も、未発表音源を追加収録した日本盤がリリースされた。ラッパーのロイル・カーナーや、ジャズシーンにも属するマルチプレイヤーのジョーダン・ラカイらとの交流も含めて、トム・ミッシュもキング・クルールと同様、ジャズやヒップホップの境界線を跨ぎ越し、それぞれを繋ぎ止めるハブと言えるだろう。




それからもう一人、トム・ミッシュやFKJに続く逸材と目されるロンドン出身のブルーノ・メジャーも、最新アルバム『To Let A Good Thing Die』のリリースを6月に控えている。甘美な歌声とクラシカルなギタープレイで、ストリーミングサービスを通じて多くのリスナーを獲得し、渋谷WWWでの来日公演もソールドアウトさせた彼もまた、今日のイギリスを象徴するシンガーソングライターと言えるだろう。


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