UK音楽シーンにおける、2020年の新たな地殻変動を読み解く

ロンドンシーンでもっとも注目すべきバンド、ソーリー

最初に紹介したいのは、北ロンドンから登場した異彩と輝きを放つ新鋭、ソーリー(Sorry)

アーシャ・ローレンスとルイス・オブライエンという幼馴染を中心にしたこのバンドは、後述する南ロンドンの重要バンド、シェイムのチャーリー・スティーンに「彼女たちのパフォーマンスを見るためなら、僕たちはロンドンのどこにでも行く」とまで言わしめる存在。名門ドミノから力強いデビューアルバム『925』を発表したばかりで、百花繚乱のロンドンシーンでももっとも注目すべき存在だろう。その理由は3つある。


ソーリー。左からルイス・オブライエン、アーシャ・ローレンス(Photo by Sam Hiscox)

まず、その不敵な音楽性。彼女たちの汚れたオルタナティブサウンドは、90年代のベックやザ・ベータ・バンドと比較したくなるもので、「宅録グランジ風」と言ってもいい。しかし、ブルースロック調のシンプルな曲は奇妙なビートプログラミングやエディットで異化されており、ギターロックのくびきから解き放たれ、自由なサウンドを表現。アンニュイでダーティーなその音楽は一方で、抜けの良さと洒脱なムードをたたえている。それはサウンドの中心に、アーシャの不遜かつ涼しげな歌声が常にあるからだろう。北ロンドンの先輩格、ウルフ・アリスのエリー・ロウゼルとも比較される彼女の歌は、ソーリーの音楽を実にポップに響かせる。

2つ目の理由は、アーシャとルイスの抜群なアイコン性にある。彼女たちのInstagramや、「Jelous Guy」「Right Round the Clock」のミュージックビデオにおけるシックかつユーモラスな装いをぜひ見てもらいたい。上掲した写真のとおり、ロンドンのチューブ(地下鉄)の座席にふんぞり返っている様もやたらと絵になる。




最後は歌詞。例の兄弟を思い出してしまう「Rock ‘n’ Roll Star」という曲は、「一晩中ロックンロールスターとやりまくった」という歌で、「私の価値が剥がれ落ちてく感じがした」「私は古い心をロックンロールスターにあげた」と、なんとも悲観的でやけっぱちな言葉が歌われる。ガーディアン紙が「フックアップ(一夜限りのセックス)カルチャーとカジュアルなドラッグ摂取に支配された夜を過ごす、壊れた22歳の音」と表現するように、アーシャが歌うのは、ニヒリズムを纏ったリアルな時代精神だ。

ソーリーは2019年末に原宿のBIG LOVE RECORDSから7インチシングル『Starstruck / Jealous Guy』をリリースしたことで、日本でもじわじわと注目を集めている。今回の『925』は、バンドをローカルでもグローバルでも重要な存在へと飛躍させる決定打になるだろう。


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