米大御所キャスターが語る、トランプ大統領のコロナ対策「大統領として恥ずかしい」

ダン・ラザー Mandee Johnson

米ベテランニュースキャスターが、トランプ大統領によるコロナ対策について語った。「我が国は安全保障のために多くの予算をかけて爆弾や弾丸を大量に備蓄している。その予算をわずかでも割いて、人工呼吸器やマスクやその他の医療用品を備蓄できなかったのだろうかーー」。

「リンドン・ジョンソンの言葉を借りて表現するならば、“私は嵐の中にいるラバのように、しゃがみ込んでいる”のだ」とダン・ラザーは、ニューヨークの自宅で語った。記者やニュースキャスターとして長年に渡り活躍した彼も88歳になり、ニューヨークで典型的な隠居生活を送っている。ただ、彼は沈黙を保っている訳ではない。ラザーはCBSと決別してから14年が経つが、AXSテレビネットワークの新番組『Big Interview』シリーズの準備に力を入れ、SiriusXMに『Dan Rather’s America』という番組を持つなど、依然として積極的に活動を続けている。

リチャード・ニクソンやジョージ・H・W・ブッシュら歴代大統領との強烈なインタビューで知られるラザーだが、ここ数年はトランプ現大統領へ矛先を向けている。また、2009年に開設したTwitterアカウントを通じて、政府に対する批判も繰り広げている。「我が国は安全保障のために多くの予算をかけて爆弾や弾丸を大量に備蓄している。その予算をわずかでも割いて、人工呼吸器やマスクやその他の医療用品を備蓄できなかったのだろうか」や、「ところで上院のジム施設は今でも使えるそうだが、とても信頼できる対応とは言えない」といった具合だ。

ラザーには、現在のパンデミックについての見解や、コロナウイルスへのトランプ政権とメディアの対応についても伺った。

ーあなたは公民権運動からベトナム戦争、ウォーターゲート事件までさまざまな歴史を目撃してきました。現在の我々が乗り越えようとしている状況と比較できるような過去の出来事はあるでしょうか?

いや、ない。米国では1918年のスペイン風邪以来の事態で、高齢の私でさえ1918年にはまだこの世にいなかった(笑)。今回は完全に未知の領域だ。事態が収拾しても、元どおりの国には戻れないだろう。さらに言えば、元に戻るべきでないかもしれない。

我々は今回のような試練を実際に味わったことがない。おそらくパールハーバーが攻撃を受けた最初の数日間にまで遡る必要があるだろう。その時は、第二次世界大戦に敗れるかもしれないという恐れと悲しみが全米を包んだ。しかし我々が歴史から学んだのは、大きな希望と固い意志を持てば、今回のような事態を乗り越えられるいうこと。きっと我々はできると思う。

ーあなたは常日頃からドナルド・トランプを批判しています。パンデミックに対するこれまでの彼の対応をどう見ていますか?

どれだけ感情を抑えて客観的に言っても、彼の対応は失望でしかない。彼は明らかに陣頭指揮を避けて後ろへ回った。あらゆる対策や戦略に対する責任を取りたくないという態度だ。彼はいつも誰か他の人間になすりつける。失望を感じるし、言ってしまえば大統領として恥ずかしい。

ーメディアの一部からは、トランプの記者会見は「プロパガンダ」だから放送すべきでない、とする声も上がっています。

この質問は来ると思っていたよ。「これは聞いてくれるな」と願っていたら聞かれた(笑)。正直に言って私は態度を決めかねている。トランプの言う記者会見が実際はプロパガンダであり、そう言われる確固とした根拠があると思う。彼なりの新たな選挙キャンペーンといえる。我々ジャーナリストのほとんどは、前回の大統領選で理解したはずだ。彼に電波を支配させると、彼にフリーパスを与えてしまうことになる。だから彼の記者会見を放送するなという主張には、強い根拠があると感じる。

しかし反面で放送業界に長く携わった者としては、放送するかしないかはビジネス上の判断が優先されると思うし、それも理解できる。例えばA局とB局が放送せずC局のみが放送すると、C局の視聴率がずば抜けて上昇し、財務やその他の面でも潤うだろう。それが現実だし、議論されるのは良いことだ。しかし大きな変化は望めないと思う。

ーTwitterを10年以上続けていらっしゃいますが、満足していますか?

満足しているし、驚きでもある。実はTwitterには乗り気でなかった。若いスタッフがソーシャルメディアのプラットフォームの利用を勧めてきたが、「悪いが年寄りには向かないよ」という感じで尻込みしていた。それでも彼らは引き下がらず、少しでも世間とのつながりを保ちたいなら他に選択肢はないし、絶対不可欠だなどと言うので仕方なく始めた。今は新たなコミュニティーの感覚をとても楽しんでいる。

Twitterでは時折、メディアを皮肉っていますね。例えば政府の準備不足を指摘したニューヨーク・タイムズ紙のヘッドラインに対して、「トランプ政権の失政を叩いたつもりだろうが上手くない記事。私だったらこんな消極的なヘッドラインは書き直す」というように注文を付けていました。

いかに難しいかは常に意識しなければならない。事情はよく知らなくても、私にはさまざまな経験がある。たまたま記者会見中のピーター・アレキサンダーと大統領とのやり取りを生で見ていたが、ピーターには本当に同情した。私もかつてあの立場にいたからだ。(2020年3月20日、記者会見中にトランプ大統領へ「今の状況に怯えながら会見を見ている国民に対するメッセージはありますか」と問いかけたNBCのアレキサンダーに対し大統領は、「君は酷いレポーターだ」と返した。)私はピーターの気持ちがよくわかる。米国のジャーナリズムは、特にこの3年間は称賛に値する。そんなに前のことではないが、調査報道が時代遅れになりそうな時期があり、私は本当に憂慮した。時には酷いものもあったが、全体として報道内容はとても素晴らしかった。

Translated by Smokva Tokyo

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